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JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第19章 - 2040年の世界へ

イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第19章

イッカボグ

JKローリングのイッカボッグ

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第十九章:エスランダ令嬢

スピトルワースは、監獄へと急ぎました。

ヘリングボーンはもういません、三人の正直者の兵士を殺すのを誰も邪魔することはできないのです。

スピトルワースが自分で三人を殺して、そのあとで理由を考える時間はたっぷりあります。

国王の宝庫に死体を運んで、宝石泥棒に仕立ててもいいのです。

 

スピトルワースが監獄の扉に手をかけたところで、暗闇の後ろから、かすかな声がしました、

「こんばんは、スピトルワース公。」

そこにいたのは、深刻なおももちをした、黒髪のエスランダ令嬢でした。

エスランダ令嬢

令嬢は、三人の兵士が死刑になるということを、召使のヘティから聞いたのです。

ヘティは、スピトルワースが、ノビー・ボタンの話をしているのを聞いたあと、気になって衛兵たちの部屋まであとをつけて、こっそり話を全部聞いていたのです。そして正直者の三人の兵士が死刑を言い渡され、連れ去られたのを知って、エスランダ令嬢に相談に行ったのでした。

召使のヘティ

ヘティは、エスランダ令嬢がグッドフェロー大尉に恋していたことは知りませんでした。ただ、令嬢方の中で、エスランダ令嬢が一番賢くて、心優しい人だと思っていたのです。

エスランダ令嬢は、ヘティが危険な目にあうかもしれないと考えて、金貨を持たせると、すぐに宮殿を出るようにと言いました。そして着替えると、急いで階段を駆け下りていったのです。

階段を下りたところで、エスランダ令嬢は、ヘリングボーンが、死刑を止めて、三人を監獄へ入れておくようにと命令しているのを聞きました。それで一安心かと思ったのですが、まだ心配だったので、そこでしばらく隠れて待っていたのです。そうすると、案の定、銃を手にしたスピトルワースが、監獄に向かっていくではありませんか。

「主任相談役はどちらへ?お声を聞いたように思ったのですが。」令嬢は尋ねました。

「ヘリングボーンは引退しました、」スピトルワースが、言いました、

「あなたの目の前に立っているのが、新しい主任相談役です。」

「それはおめでとうございます!」エスランダは恐ろしかったのですが、無理に明るく振舞いました。

「では、あなた様が、監獄にいる三人の兵士の裁判を執り行われるのですね?」

 

「令嬢はよくご存じですね、監獄にいる兵士のことを誰から聞いたのですか?」

怪しく思ったスピトルワースが、そう尋ねました。

 

「ヘリングボーンがそのよう事を話しているのを聞いたのです。彼らは立派な兵士だから、公平な裁判をしなければならないと。フレッド王もきっとそう仰るでしょう、王様はご自身の人気をとても大切になさいます、王様というのは人気者で愛されていなくてはなりませんから。」

エスランダ令嬢は、王様の人気のことを持ち出して、うまくごまかしました。ほとんどの人は、令嬢の言葉をそのまま信じたことでしょう、でもスピトルワースは違いました。令嬢の声が震えていたのを聞き逃しませんでした。

令嬢が、夜中に大急ぎで駆けつけるのは、おそらく、三人の中に令嬢が思いを寄せる人がいるからに違いないと見抜いたのです。

「三人の中の誰を、令嬢はお気になさっているのかな?」スピトルワースは尋ねました。

エスランダ令嬢は、頬が熱くなるのを止められませんでした。

「オグデンではないな、彼は結婚している。ワグスタッフ?彼はいい奴だが短気だから、違うな。

ということは、グッドフェロー大尉ということですね。」スピトルワース公は言いました。

「だが、彼はチーズ職人の息子ですよ、地位が違いすぎやしませんか?

 

「誠実な方ならば、チーズ職人でも王様でも関係ありません。」エスランダ令嬢は言いました、

「兵士たちが裁判もなしに処刑されでもしたら、王様の恥となります。王様がお目覚めになったら、私がそう伝えます。

そう言うと、エスランダ令嬢は震えながら、階段を駆け上がっていきました。兵士たちの命を救うことができたのかどうか、わからないまま、令嬢は眠れない夜を過ごしたのでした。

 

スピトルワースはずっと考えていました。あの兵士たちの口を封じてしまいたい、あの者たちは、多くを知りすぎてしまった。

それでも一方では、エスランダ令嬢が言ったことも正しいと思いました。裁判をしないで処刑すれば、王様は人々から責められる。そうなると、王様は、スピトルワースの責任だと言って、主任相談役の座を取り上げるかもしれない。そんなことにでもなろうものなら、夢に描いた富と名声は、手に入らなくなってしまう。

スピトルワースは、監獄の扉をあとにすると、寝室に向かいました。

かつて結婚したいと思っていたエスランダ令嬢が、よりによってチーズ職人の息子に恋していると知って、スピトルワースは、気分を害していました。

いつか、あの女に、思い知らせてやる、スピトルワースは、そう心に決めたのでした。

 

 

-イッカボッグ・訳 by どら雲
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