イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第63章

イッカボグ

 

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第六十三章:スピトルワース公の最後の計画

行列の先頭を歩いていたデイジーは、宮殿の中庭に到着して驚きました。前とほとんど変わっていなかったからです。噴水は同じように吹き出し、クジャクは気取って歩いていました。ただひとつ違っていることといえば、宮殿の二階の窓がひとつ、割れていたことくらいです。

その時、豪華な金色の扉が大きく開き、ぼろぼろの服を着た人がふたり、一団に向かって歩いてきました、斧を手にした白髪の男の人と、分厚いフライパンを握りしめた女の人です。

白髪の男の人をみつめていたデイジーは、膝の力が抜けていくのを感じました、優しいイッカボッグルがデイジーを抱えあげ、支えてあげました。ダブテイルさんは、よろよろと近寄りました。長い間、離れ離れだった娘にようやく会えたのです。娘の横に、本物のイッカボッグが立っているなんて、気づきもしなかったようです。ふたりが涙を流して抱き合っていた時、デイジーは、お父さんのうしろに、ビーミッシュ夫人の姿を見つけました。

「バートは生きてますよ!」、デイジーは、必死で息子の姿を探している菓子職人に呼びかけました、「他にすることがあって、でもすぐに戻ってきますよ!」

宮殿から、次々と囚人たちが飛び出してきました。最愛の家族との再会に、あちこちで喜びの叫び声があがりました。そして、たくさんの孤児たちは死んだと思っていたお父さんやお母さんに、また会うことができたのです。

その他にもたくさんのことが起こりました。狂暴なイッカボッグルは、また人を殺してしまわないようにと、30人の力持ちの男たちに囲まれ、連れて行かれました。デイジーはお父さんに、マーサもいっしょに暮らしたいとお願いしました。そしてグッドフェロー大尉は、パジャマ姿のまま泣きべそをかいているフレッド王を連れてバルコニーに現れ、これからは王様なしの国を作っていこうと宣言しました。民衆は大歓声を上げました。

さてここで、いい事ばかりの場面から離れて、コルヌコピアをさんざんひどい目に合わせた張本人がどうなったかを、確かめに行きましょう。

荒れ果てた田舎道を、スピトルワース公は、ずいぶん遠くまで馬を走らせていましたが、突然その馬が力尽きてしまいました。スピトルワースが、無理やり走らせようとすると、それまでさんざんな目にあってきてうんざりしていたのか、その馬は後ろ足で立ち上がり、スピトルワースを地面に振り落としてしまいました。スピトルワースが、鞭で叩こうとすると、今度は後ろ足でスピトルワースを蹴っ飛ばし、馬は森の中へ逃げてしまいました。心配はいりません。その馬はそのあと、親切な農民に出会い、すっかり元気に暮らしているということです。

その後、スピトルワース公は、主任相談役のローブを踏んづけて転ばないように持ち上げたまま、誰かにあとをつけられていないか心配しながら、少し進んでは振り返り、田舎道を郊外の屋敷までひとりで駆け足していったのです。もうコルヌコピアにはいられないとわかっていました。けれども屋敷のワイン貯蔵庫には、金貨が山ほど隠してあります。それを荷馬車に積めるだけ積んで、こっそり国境を越え、プルリタニアの国に逃げようと計画していました。

スピトルワースが屋敷に着いたのは、夜も更けたころでした。足が痛くてたまりませんでした。よろよろと中に入ると、執事のスクランブルを呼びつけました、ずいぶん前に、ノビー・ボタンの母親や、フラウディシャム教授を演じた男です。

「ご主人様、こちらでございます!」下のワイン貯蔵庫から声がしました。

「どうしてランプをつけないのだ、スクランブル?」手探りで階段を降りながらスピトルワースが怒鳴りました。

「留守のように見せかけたほうがいいかと思いまして!」スクランブルが大声で答えました。

「なるほど、」スピトルワースは、顔をしかめ、足を引きずって階段を降りました。「もう耳に入っておるのだな?」

「さようでございます、ご主人様、」声が響きました。「ここを引き払うおつもりで?」

「そうだ、スクランブル、」スピトルワースは、足を引きずり、遠くに見える一本のロウソクの灯のほうへ向かいました、「まさしくその通りだ。」

そしてスピトルワースは、今まで何年もの間、金貨をため込んでいた貯蔵庫の扉を開けました。薄暗いロウソクの灯でよく見えませんでしたが、執事は、以前使ったフラウディシャム教授の衣装を身につけていました。白いかつらをかぶり、分厚い眼鏡のせいで目が小さくなっていました。

「変装されたほうがいいかと思いまして、ご主人様、」スクランブルはそう言うと、年老いた未亡人ボタンの黒いドレスと黄色いかつらを差し出しました。

「いい考えだ、」スピトルワースはそう言うと、来ていたローブを脱ぎ捨て、衣装を身に付けました。「風邪でもひいたのか、スクランブル?声がおかしいようだが。」

「ここが埃っぽいせいでございます、ご主人様、」執事はそう言うと、ろうそくの灯から離れました。「エスランダ令嬢はどうなさいますか、ご主人様、まだ書斎に閉じ込められたままですが。」

「ほっておけ、」少し考えてからスピトルワースが言いました。「結婚を拒み続けた報いだ。」

「かしこまりました、ご主人様。金貨はすでに荷馬車と馬2頭に積み終えました。これが最後のトランクなのですが、運ぶのをお手伝い頂けますでしょうか?」

「スクランブル、お前まさか私を待たずに出て行くつもりだったのではないだろうな、」

スピトルワースは、自分があと10分遅く着いていたら、スクランブルはもういなかったのではないかと疑ったのです。

「とんでもございません、ご主人様、」スクランブルが答えました。「ご主人様を待たずに立ち去るなんてめっそうもないことでございます。騎手のウィザースが準備を整えて、中庭で待っております。」

「よろしい、」そう言うと、スピトルワースはスクランブルといっしょに金貨の詰まった最後のトランクを持ち上げ、階段を上がり、裏手にある中庭に運び出しました。スピトルワースの荷馬車が、暗闇の中で待機していました。馬の背にまで金貨の入った袋がぶら下がっていました。そして荷馬車の上にも金貨の入ったたくさんの箱がくくりつけられていました。

ふたりが、最後のトランクを屋根の上に乗せているとき、スピトルワースが言いました、「何だこの奇妙な物音は?」

「何も聞こえませんが、ご主人様、」スクランブルが答えました。

「何かうめき声のような音だ、」スピトルワースが言いました。

暗闇にたたずむスピトルワースの頭に、ある記憶が蘇ってきました。それは、何年も前に、沼地の真っ白な霧の中で、枝に絡まってもがいていた犬を見た時のことでした。今聞こえるのは、それに似た、何か生き物が罠にかかって身動きできなくなっているような音でした。そしてあの時と同じように、スピトルワース公は不安で落ち着かない気持ちになりました。そうです、あの時、フラプーンがラッパ銃をぶっ放したのが始まりだったのです。そこからふたりは金持ちになる道を歩みだし、国は崩壊への道を歩み出したのでした。

「スクランブル、実に気に食わない物音だ。」

「それはそうでしょうな、ご主人様。」

その時、雲のうしろから月がのぞきました。スピトルワース公は、突然執事の声が変わったのに驚いて振り向きました。見覚えのある自分の銃が、自分に向けられているのが目に入りました。そして、フラウディシャム教授のかつらと眼鏡をはずして、素顔を現したのは、執事ではなく、バート・ビーミッシュだったのです。月の光に照らされた少年の顔は、ほんの一瞬、父親とそっくりに見えました、スピトルワースは血迷って、ビーミッシュ少佐が生き返って、自分を懲らしめにきたのだと思いました。

慌てふためいて見回すと、開いた荷馬車の扉の奥に、縛られて、猿ぐつわをかまされた本物のスクランブルが床に転がっているのが見えました。妙なうめき声の正体です。そしてそこには、もう一丁の銃を構えて微笑んでいるエスランダ令嬢もいました。騎手のウィザースに、いったいどうなっているんだ、と怒鳴ろうとしたスピトルワースは、それがウィザースではなく、ロデリック・ローチだと気づいたのです。(本物の騎手は、ふたりの少年が屋敷に現れたときに、危険を感じて、スピトルワース公の馬からお気に入りを盗み、とっとと夜の彼方へ走り去っていたのでした。)

「どうやってそんなに早くここまで来られたのだ?」スピトルワースには、そんなことしか思い浮かびませんでした。

「農家から馬を借りたんだ、」バートが言いました。実は、バートとロデリックはスピトルワースよりもずっと優れた騎手だったので、馬が力尽きることもありませんでした。スピトルワースよりずいぶん早く到着して、エスランダ令嬢を救い出し、金貨の在りかを見つけ、執事のスクランブルを縛り上げ、スピトルワースがそれまで国をだまし続けてきたすべてを聞き出していました。フラウディシャム教授やボタン未亡人を演じたのがスクランブルだったことも。

「君たち、早まるな、」スピトルワースが力なく言いました。「ここにはたくさんの金貨がある、お前たちにも分けてやろうではないか!」

「それはあなたのものではありませんよ。」バートが言いました。「あなたには、僕たちといっしょにショーヴィルに戻って、公正な裁判を受けてもらいます。」

 

 

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