イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第41章

イッカボグ

 

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第四十一章:ビーミッシュ夫人の計画

「母さん、」バートが呼びかけました。

ビーミッシュ夫人は、台所のテーブルで、バートのセーターのほつれをなおしながら、時おり、手をとめては涙をぬぐっていました。ショーヴィルで起こったイッカボッグの襲撃事件が、夫人に、ビーミッシュ少佐の痛ましい死を思い出させたのです。

宮殿の「青の客間」で、コルヌコピアの国旗をかぶせられ、その姿を見ることもできなかった愛する夫。その冷たい手にお別れのキスをした、あの夜のことを考えていました。

「母さん、見て、」バートは奇妙な声でそう言うと、ベッドの下で見つけた爪のついた小さな木製の足を、そこに置きました。

ビーミッシュ夫人は、それを手に取ると、裁縫の時にいつもかけている、めがね越しに、じっくりと観察しました。「あら、これはあなたが小さい時にもっていたおもちゃのかけらじゃないの? イッカボッグの・・・」

ビーミッシュ夫人は、言い終わらずに、まだその木彫りの足を見ていました。そして思い出したのです。ついさっき、バートといっしょに見た怪物の足跡を。姿を消した老婆の家の回りの泥んこの地面に残っていた足跡、それはずっとずっと大きなものでしたが、このかけらとまるで同じ形だったのです。つま先の角度も、うろこも、長い爪も。

それから数分間、ろうそくの火がぱちぱち音をたてるほか何も聞こえない静けさの中、ビーミッシュ夫人は、震える指の中にあるその小さな木製の足を見ていました。

心の中の扉が勢いよく開いたかのようでした。長い間、決して開かないようにと固く閉ざしていた扉が。

夫が亡くなってから、ビーミッシュ夫人は、イッカボッグについては、どんなささいな疑問も疑惑も受け付けませんでした。王様に忠実で、スピトルワースを信頼して、イッカボッグが存在しないという人はみんな裏切り者だと信じてきたのです。

けれども今、見ないふりをしてきたたくさんの嫌な記憶が、津波のように押し寄せてきました。

ダブテイルさんがイッカボッグについて裏切り発言をしたことを、お皿洗いに話してしまったこと、その時、こっそりと召使のキャンカビーが立ち聞きしていたこと。そのあとすぐに、ダブテイル家がいなくなったこと。縄跳びをしていた女の子が、デイジー・ダブテイルの古いドレスを着ていたこと、その子の弟が同じ時にバンダロールをもらったこと。いとこのハロルドが飢えていること、最近、北部から郵便が届かなくなったとみんなで話していたこと。そして突然エスランダ令嬢が姿を消して、みんなが不思議に思っていたこと。

小さな木彫りの足を見ているうちに、あれやこれや、百個はありそうなおかしな出来事が、だんだんとつながって、つじつまがあってきたのです。そして出来上がったのは、イッカボッグよりもはるかに恐ろしい怪物の姿でした。

あの沼地であの時少佐に本当は何が起こったのだろう、どうして少佐の体はコルヌコピアの国旗で覆われていて、その姿を見せてもらえなかったのだろう。ビーミッシュ夫人が息子のほうを見ると、息子の顔にも、同じ疑いの思いが浮かんでいました。恐ろしい考えが、がらがらと崩れ落ちました。

「王様は何も知らない、」夫人はつぶやきました、「知っているはずがない、王様は立派な人よ。」

ビーミッシュ夫人は、信じていたもの全てが間違いだったとしても、恐れ知らずのフレッド王を信じる気持ちだけは、捨てることができませんでした。王様は、いつも夫人とバートによくしてくれたからです。

ビーミッシュ夫人は、小さな木彫りの足をしっかりと握りしめると、やりかけのバートのセーターを置いて、立ち上がりました。

「王様に会ってくる、」夫人は、バートが今までに見たこともない真剣な表情でそう言いました。

「今?」暗くなった外を見て、バートが言いました。

「今夜よ、」ビーミッシュ夫人が言いました、「ふたりの公爵がそばにいない時によ。王様は会ってくださるわ、私のことをよく思ってくださっているはずだから。」

「僕もいっしょに行くよ。」バートが言いました。なんだか嫌な予感がしたからです。

「だめよ、」ビーミッシュ夫人は、息子のそばに来ると、肩に手を置いて、顔を覗き込んで言いました、「よく聞くのよ、バート。もし母さんが一時間以内に戻ってこなかったら、あなたは、ショーヴィルの街を出なさい。ジェロボームに行って、いとこのハロルドに会って、何もかも話すのよ。」

「でも・・」急に怖くなってバートが言いました。

「一時間以内に戻らなかったら街を出ると約束して、」ビーミッシュ夫人が、厳しい声で言いました。

「わかったよ、そうするよ、」ほんの少し前、英雄になって死ぬことを想像しながら、そうなったらお母さんをどれほど悲しませることになるかなんて、あまり気にもしていなかった少年は、すっかり怯えていました。「母さん・・」

夫人はバートをしっかり抱きしめると、「あなたは賢い男の子よ。決して忘れないでね。あなたは、兵士の息子、そして菓子職人の息子だってこと。」

ビーミッシュ夫人は、足早に扉に向かうと、靴をはき、最後にバートに微笑みかけると、夜の闇に消えて行きました。

 

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