イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第40章

イッカボグ

 

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第四十章:バートが気づく

郵便馬車がショーヴィルの街中まで入って来てしまったことを聞いたスピトルワースは、重たい木製の椅子をつかむと, ローチ少佐の頭めがけて投げつけました。

ローチはスピトルワースよりもはるかに力持ちです。飛んできた椅子を軽く手で跳ねのけると、剣の柄に手をやりました。何秒かの間、ふたりは、衛兵室の薄暗がりの中で、ぎらりと光る歯をむき出しにして、向き合いました。フラプーンとスパイは、あっけにとられて様子を見ていました。

「今夜、ショーヴィルのはずれに「闇の使い」を送れ、」スピトルワースは、ローチに命じました、「にせ襲撃をするのだ、民衆を怖がらせなければいかん。税金は必要なんだとわからせろ。親戚が苦しんでいるのは、イッカボッグのせいなのだ、私や王の責任ではない。行け!しくじった分を取り戻してこい!」

少佐は激怒して部屋を出ていきました。そばに誰もいなければ、あらゆる手を使って奴を痛めつけてやるのにと、心の中で思いめぐらせていました。

「そこのお前、」スピトルワースがスパイに言いました、「ローチ少佐がうまくやったかどうか明日報告に来るのだ。人々がまだ親戚が飢えてるだの貧乏だのと囁いていたら、その時は、ローチ少佐にも牢獄の居心地を味わってもらわねばならん。」

というわけで、ローチ少佐が率いる「闇の使い」たちは、夜が更けるのを待って出かけました。ショーヴィルの街に、初めてイッカボッグがやってきたと思わせるためです。

一行は、街のはずれに、少し離れて建っている小さな家を選びました。鍵破りの名人がこっそりと家に忍び込み、とても悲しいことなのですが、そこに住んでいた、か弱い老婆を殺してしまいました。

その老婆は、フルーマ川に住む魚の絵が入った素晴らしい本を何冊か書いた人だったと、覚えておいてあげてください。

老婆の体が担ぎ出されると、何人かの男が、その魚専門家の家のまわりに、ダブテイルさんの作った見事な4本の足型を付けて回り、家具や水槽を壊しました。中に泳いでいた魚は床の上で苦しそうに死んでいきました。

翌朝、スピトルワースのスパイは、計画がうまくいったことを伝えました。今まで、恐ろしいイッカボッグの目を逃れてきたショーヴィルの街が、ついに襲われたのです。「闇の使い」の仕事は完璧でした。

なにひとつ不自然さのない足跡、怪物の仕業としか思えない扉の壊し方、尖った金属でつけた怪物の歯型。気の毒な老婆の家を見ようと集まった人だかりは、すっかり騙されてしまいました。

バート・ビーミッシュ少年は、お母さんが食事の支度をしに家に帰ったあとも、ずっとその現場に残って、怪物の足跡や牙のあとを、すみずみまで細かく観察しました。いつの日か、お父さんを殺したその怪物と戦う時のために、そいつがどんな姿をしているのか、想像力を働かせておかなくてはいけません。少年は、お父さんの仇うちを、決して諦めたわけではなかったのです。

怪物が残した跡を、残らず記憶に収めると、バートは怒りに震えながら家に帰り、部屋にこもりました。そして、お父さんがイッカボッグと勇敢に戦った印として贈られたメダルと、バートが中庭でデイジー・ダブテイルと喧嘩したあとにもらった小さな金のメダルを取り出しました。

小さいほうのメダルを見ると、バートは悲しくなりました。デイジーがプルリタニアに行ってしまってから、バートにはデイジー以上に仲良しの友達ができませんでした。でも少なくとも、デイジーとデイジーのお父さんは、恐ろしいイッカボッグの手の届かないところにいるのだから、とバートは思いました。

くやし涙があふれてきました。どれほどイッカボッグ特別防御軍に入りたかったことか。優秀な兵士になれる自信があるのに。バートは、戦いで死んでもいいと思っていました。そんなことになったらお母さんをとんでもなく悲しませることになります、夫だけでなく息子までイッカボッグに殺されてしまうのですから。でも、そうなれば、お父さんのように、バートも英雄になれるのです!

復讐と栄光の光景に夢中になっていたバートは、ふたつのメダルを暖炉の飾り棚に戻そうとして、小さいほうのメダルをうっかり落としてしまいました。メダルはベッドの下に転がっていきました。

バートは床に這いつくばって手探りしましたが、見つかりません。体をくねらせて、もっともぐりこむと、やっと一番奥のすみっこに転がっているのをみつけました。そばには、いつからそこにあったのか、蜘蛛の巣だらけの尖った何かがありました。

メダルと、その尖ったものをつかみだすと、ほこりまみれになったバートは、腰を下ろし、その何かを確かめました。

ろうそくの灯に照らすと、それは、完璧に作られた小さなイッカボッグの足だったのです。ダブテイルのおじさんがずいぶん前に彫ってくれたおもちゃの、最後のひとかけらです。あの時、全部燃やしてしまったと思っていたのに、火かき棒で叩き壊した時、この足だけが、ベッドの下に飛び散ったのでしょう。

バートは、その足を暖炉の火に放り込もうとしましたが、急に気を変えて、その足を、じっくりと観察し始めました。

 

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