イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第62章

イッカボグ

 

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第六十二章:生まれ来る

さて、いくつかの事が、同時に起こってしまったので、全部を見ることができた人はいませんでした。でも、幸い、私がそのすべてをあなたにお話しましょう。

フラプーン公がぶっ放した銃弾は、イッカボッグの裂けたおなかめがけて飛んでいきました。何があってもイッカボッグを守ると誓ったバートとロデリックが、イッカボッグの前に飛び出しました。弾丸は、バートの胸を直撃しました。バートは地面に倒れこみ、「イッカボッグは無害です」と書かれた木製の看板が、ばらばらに壊れました。

それから、イッカボッグの赤ん坊が、イッカーのおなかからもぞもぞと出てきました。すでに背丈が馬より大きい赤ん坊です。その「生まれ来る」はひどいものでした。お母さんが、銃を向けられて恐怖でいっぱいだった時に誕生したからです。最初に目に入ったのは、自分を殺そうとしている人間でした。赤ん坊は、銃に弾丸をこめていたフラプーンにまっしぐらに向かっていきました。

兵士たちはフラプーンを助けることもできたのですが、その生まれたての怪物に恐れをなして、銃を撃つこともせずに逃げ出してしまいました。スピトルワースは、中でも一番早く逃げ出して、あっという間に見えなくなっていました。イッカボッグの赤ん坊は、恐ろしい唸り声を上げて、フラプーンに飛び掛かりました。その場にいた人々は、今でもその時のうなり声が夢に出てきてうなされるのです。あっという間に、フラプーンは、地面に叩きつけられ、殺されてしまいました。

すべてがあっと言う間の出来事でした。人々は、叫んだり泣いたりしていました。デイジーは、道に横たわって死んでいくイッカボッグに、まだしがみついていました。すぐ横にはバートが倒れていました。ロデリックとマーサが覗き込むと、驚いたことに、バートが目を開けたのです。

「僕、僕は大丈夫みたいだ、」バートがささやきました、そしてシャツの中に手を入れて探ると、お父さんの大きな銀のメダルを引っ張り出しました。そこには、フラプーンの弾丸が食い込んでいました。メダルが、バートの命を救ったのです。

バートが大丈夫だったことがわかって、デイジーは、またイッカボッグの毛むくじゃらの顔に、両手をうずめました。

「私のイッカボッグルを見られなかった、」死んでいくイッカボッグがささやきました、その目にはまたガラスのリンゴのような涙が浮かんでいました。「とってもきれいな赤ん坊、」デイジーも、そう言って泣き出しました。「ほら見て、ほら・・」

イッカボッグのおなかから、二人目のイッカボッグルがもぞもぞと出てきました。今度は、人懐こい顔をして、おどおどした笑みを浮かべたイッカボッグルでした。なぜなら「生まれ来る」が起こった時、お母さんがデイジーの顔を見ていたからです。そこに浮かぶ涙を見ていたからです。そして人間が、イッカボッグのことを家族と同じように愛する事ができるということがわかったからです。

二番目のイッカボッグル

まわりの騒々しい物音や叫び声を気にすることもなく、2番目のイッカボッグルは、デイジーのそばに膝まづくと、イッカボッグの大きな顔をそっと撫でました。イッカーとイッカボッグルは、お互いを見つめ合い、微笑みました。そして、イッカボッグは、静かに、その大きな目を閉じました。イッカボッグは、死んでしまいました。デイジーは、そのもじゃもじゃの毛に顔をうずめて、泣きました。

「悲しんじゃだめ、」耳慣れた太い声が響いて、何かがデイジーの頭を撫でていました。「泣かないで、デイジー。これは「生まれ来る」だから。素晴らしいことなんだから。」

驚いてデイジーが見上げました。赤ん坊は、イッカーと全く同じ声でしゃべったのです。

「私の名前を知ってるの、」デイジーが言いました。

「もちろん知ってる、」イッカボッグルが優しく答えました。「あなたのこと全部知って生まれ来たから。さあ早く私のイッカボブを探さなきゃ、」デイジーは、イッカボッグが兄弟のことをそう呼ぶんだとわかりました。

立ち上がると、道端に、死んだフラプーンが横たわっているのが見えました。そして一番目のイッカボッグルが、三つ又や銃を持った人々に取り囲まれていました。

「いっしょに乗って、」デイジーが急いで二番目の赤ん坊にそう言うと、ふたりは、手を取り合って、荷馬車に乗り込みました。デイジーは民衆に向かって大声で話しかけました。デイジーは、イッカボッグの肩に乗って、国中を歩いてきた女の子です。何か大切なことを話そうとしているに違いないと、そばにいた人たちは思いました、そして他の人たちにも静まるようにと言ってくれたのです。デイジーが話し始めました。

「イッカボッグを攻撃してはいけません!」それが最初にデイジーの口から出た言葉でした、その言葉に、民衆はようやく静かになりました。「もし皆さんが惨酷なことをすれば、生まれてくる赤ん坊はもっと惨酷になるのです!」

「生まれ来る赤ん坊はもっと惨酷になる、」デイジーの横で、イッカボッグルが言いなおしました。

「そう、『生まれ来る』赤ん坊はもっと惨酷になるんです、」デイジーが繰り返しました。「でももし、優しさの中に生まれ来ることができれば、赤ん坊も優しくなるのです!イッカボッグはキノコしか食べないんです、そして私たちと仲良くしたいと思っているんです!」

民衆は何を信じていいかわからず、ぼそぼそと話し始めました。デイジーは説明しました、ビーミッシュ少佐が沼地で死んだこと、それはイッカボッグに襲われたのではなく、フラプーン公に撃たれたのだということ、そしてスピトルワースが、その事件を利用して沼地の殺人怪物の話をでっちあげたこと。

民衆は、フレッド王に会って話をすることに決めました。死んだイッカボッグとフラプーン公の体を乗せた荷馬車を、20人の力持ちの男たちが引きました。そうして、宮殿を目指して大行進が始まったのです。先頭にはデイジー、マーサ、そして優しいイッカボッグルが腕を組んで歩きました。恐怖と嫌悪の中で生まれた狂暴な一番目のイッカボッグルは、また人を殺してしまわないように、銃を持った30人の国民が回りを取り囲んで進みました。

バートとロデリックは、何やら短い相談をしたあとで、姿を消しました、どこへ行ったのかは、もうすぐわかります。

 

 

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