イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第42章

イッカボグ

 

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第四十二章:カーテンのうしろ

ビーミッシュ夫人は、中庭から、暗くて誰もいない台所に入りました。忍び足であたりを見回し、召使のキャンカビーが物陰にひそんでいないか確かめながら進んでいきました。ゆっくりと気をつけて、夫人は王様専用の部屋へ向かいました。手には小さな木製の足を握りしめていたので、とがった爪が、手のひらに食い込んでいました。

そしてようやく、フレッドの部屋に続く、深紅のカーペットが敷かれた廊下までやってきました。扉の向こうから笑い声が聞こえました。フレッドは、ショーヴィルのはずれで起こったイッカボッグの襲撃事件のことを聞かされていないのだと、ビーミッシュ夫人は思いました。もし聞かされていたら、王様が笑っているはずがないからです。けれど、誰かが王様の部屋にいるのは確かでした。フレッドが一人の時に会いたかったので、どうしようかと考えていたその時、先のほうで扉が開きました。

とっさに、ビーミッシュ夫人は、長いビロードのカーテンの後ろに飛び込み、カーテンが揺れないようにじっとしていました。スピトルワースとフラプーンが、王様と冗談を言って笑いながら、おいとましようと部屋を出てきました。

「陛下は冗談がお上手だ、ズボンが張り裂けましたぞ!」フラプーンは馬鹿笑いをしました。

「笑わせ上手のフレッド王、と命名しなおさねばなりませんな!」スピトルワースは含み笑いをしました。

ビーミッシュ夫人は、息を止めて、おなかを引っ込めました。フレッドの扉が閉まると、ふたりの公爵は途端に笑うのをやめました。

「救いようのない馬鹿者よ」フラプーンが低い声で言いました。

「クルズブルグのデブのほうがよっぽど賢いぞ、」スピトルワースがつぶやきました。

「明日は、君が王のご機嫌取りをしてくれないか?」フラプーンがぐちりました。

「明日は徴税人と会うから3時まで忙しいのだ、」スピトルワースが言いました、

「でももし・・・」

そこでふたりの公爵が話すのを止めました。足音が止まりました。

ビーミッシュ夫人は、目を閉じて、まだ息を止めたまま、ふたりが、カーテンのふくらみに気づかないようにと祈っていました。

「では、おやすみ、スピトルワース」フラプーンの声がしました。

「ああ、君もゆっくり休めよ、フラプーン、」スピトルワースが言いました。

どきどきしながら、ビーミッシュ夫人は、ゆっくりと息を吐きました。大丈夫。公爵たちは、寝室に帰っていく・・けれども、なぜか足音は聞こえませんでした・・・

その時です、息を吸いこむ間もなく突然、カーテンがめくられました。叫び声をあげる間もなく、フラプーンの大きな手が夫人の口を覆い、スピトルワースが、夫人の手首をつかみました。

ふたりの公爵は、ビーミッシュ夫人を引っ張り出すと、そばの階段を引きずり降ろしました。もがいて叫ぼうとしましたが、フラプーンの太い指で声も出ません、すり抜けて逃げることもできませんでした。そして夫人は、死んだ夫の手にキスをした、あの「青の客間」に押し込まれたのです。

「声を上げるな、」スピトルワースは、宮殿の中でもいつも身に付けている短剣を夫人に突き付けて脅しました、「でないと、王様は新しい菓子職人を探すことになるぞ。」

そういうと、フラプーンに、ビーミッシュ夫人の口から手を離すように合図しました。

夫人はまず大きく息を吸い込みました。気を失いそうになっていたからです。

「カーテンが大きくふくらんでいたぞ、」スピトルワースがあざ笑いました、「台所はもう閉まっているというのに、いったい何の用があって王の近くをうろついていたんだ?」

ビーミッシュ夫人は、その気になれば嘘をつくこともできました。フレッド王に明日はどんなお菓子を焼きましょうかとお尋ねしたかったのです、と芝居することもできました。でも、二人の公爵が、そんなことを信じるわけがないとわかっていました。

そこで夫人は、イッカボッグの足を握りしめていた手を差し出して、指を開きました。

「知っているんですよ、」夫人は静かに言いました、「あなたたちが何を企んでいるのか。」

ふたりの公爵は、夫人に近寄ると、手のひらを覗き込みました。そこには、闇の使いたちがいつも使っている巨大な足型と全く同じ小さな足があったのです。

スピトルワースとフラプーンは顔を見合わせました、そしてビーミッシュ夫人に目をやりました。

ふたりの表情をみたその時、菓子職人は心の中で叫びました、逃げて、バート、逃げて!

 

-イッカボッグ・訳 by どら雲
-, ,