本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。
本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。
(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。
「イッカボッグ」第二十章:ビーミッシュとボタンのメダル
翌朝、王様は、主任相談役が、この大事な時に引退してしまったことを聞いて大変怒りました。
でも、スピトルワースが、あとを継いだことを知って、安心しました。
王様は、スピトルワースが、この国が危険にさらされていることを、よく理解していると知っていたからです。
王様は、安全な宮殿に戻ってほっとしていましたが、まだ旅のショックから立ち直っていませんでした。
ずっと部屋に閉じこもって、狩りにも出かけず、あの時の出来事を思い返していたのです。
ふたりの公爵は、王様が恐怖心から立ち直ってしまわないように、うまく計らっていました。
マーシュランドから戻って三日が過ぎた時、スピトルワースが王様に報告しました。
ノビー・ボタン二等兵の捜索に当たっていた兵士たちが、血の付いた靴と、馬のひずめ、そしてかじり取られた骨をいくつか見つけて、戻ってきたと。
王様は真っ青になって、座り込んでしまいました、「なんと気の毒なことだ、ボタン二等兵・・おしえてくれ、思い出せないのだ。」
「若い男です、そばかす顔の。未亡人の一人息子でした、」スピトルワースが答えた。
「まだ新人兵士で、将来有望でした、まったく悲惨なことです。もっとひどいことに、ビーミッシュとボタンを襲ったことで、イッカボッグが人間の肉の味を覚えてしまったのです。陛下がおっしゃっていたとおりです、その危険に一番に気づかれていたとは、さすが、陛下です。」
「また怪物が人間の肉を欲しがったらどうするのだ、スピトルワース?」
「お任せください、陛下、この主任相談役が、日夜、国の安全を守るために全力を尽くします。」
それから、スピトルワースは、明日の葬儀の打ち合わせを始めました。
ビーミッシュとボタンのために、華やかで盛大な国葬を執り行うのです。
そして、勇敢に戦った兵士に敬意を表して、遺族には、メダルを贈られたらいかがでしょうと、
スピトルワースは提案しました。そして、王様にも、勇敢に戦った印として、大きな金のメダルを用意していたのです。何せ、王様は、怪物の首に、剣を突き刺したのですから。
王様の心は、乱れていました。
正直な心が言いました:そうではない、お前は霧の中でイッカボッグを見て、剣を落として逃げたのだ。刺してなどいない、そんなに近くまで行ってもいないではないか。
臆病な心がもっと大きな声で言いました:スピトルワースの言ったとおりだと認めたではないか!今、実は逃げたなどと言ったら、おまえは笑われ者だぞ!
そして見栄っ張りな心が一番大きな声で言いました:私は、イッカボッグ退治の軍団を率いたのだ。最初にイッカボッグを見たのは、私だ。メダルを受けるにふさわしい。明日の黒い喪服に、実によく似合うではないか。」
そしてフレッドは言いました。
「その通りだ、スピトルワース。お前の言う通りだ。あまり自慢はしたくないがな。」
翌日は、イッカボッグの犠牲者をしのぶ、国民の追悼の日とされ、盛大な葬儀が執り行われました。
ビーミッシュ少佐とボタン二等兵の棺をのせた馬車が、羽飾りをつけた黒い馬に引かれて、人々が見守る中、街を通りすぎていきました。
フレッド王は、棺のすぐ後ろを、真っ黒な馬に乗り、大きな輝く金のメダルをかけて進みました。
王様のうしろには、ビーミッシュ夫人とバートが歩きました。そしてもうひとり、喪服に身を包み、赤毛のかつらをつけて、泣きわめく老女の姿もありました。ノビー・ボタンの母親、ボタン夫人だということでした。
棺が埋められたあと、王様が、遺族にメダルを贈りました。それは、銀のメダルでした。
スピトルワースは、王様の金のメダルのような高価なものは、用意したくなかったのでした。
お葬式が終わると、ビーミッシュ夫人とバートは、歩いて家に帰りました。
途中で、人ごみをかき分けて、ダブテイルのおじさんが現れ、ビーミッシュ夫人にお悔やみを言うと、
ふたりは、しばらく抱き合っていました。
デイジーも、バートに何か言いたかったのですが、みんなが見ていたし、バートは、足元をじっと見ていたので、話しかけることができませんでした。
家に着くと、ビーミッシュ夫人は、ベッドの上に泣き崩れました。
バートが慰めても、だめでした。
バートは、お父さんの銀のメダルをもって自分の部屋に入ると、そのメダルを暖炉のかざり棚に置きました。
隣には、前にダブテイルのおじさんが作ってくれたイッカボッグのおもちゃが置いてありました。
その時はじめて、バートは、お父さんがイッカボッグに殺されたことを思い出しました。
バートは、イッカボッグのおもちゃを床に置くと、火かき棒で、思いっきり叩きつぶしました。
そして壊れた木のくずを、暖炉に投げ込みました。
どんどん大きくなっていく炎をみつめながら、バートは誓ったのです。
大きくなったら、僕がイッカボッグを探し出す。そしてお父さんを殺した怪物に復讐するんだと。