本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。
本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。
(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。
「イッカボッグ」第三十七章:デイジーと月
グランターばあさんの孤児院は、デイジーが袋詰めにされて連れてこられたあの日からは、ずいぶんと変わっていました。
みすぼらしい家は、今では大きな石造りの建物になっていました。窓には鉄格子が入り、どの扉にも鍵がついていて、百人の子供が収容できる大きさでした。
デイジーはまだそこにいました、もっと背が伸びてもっと痩せっぽちになっていましたが、連れてこられた時に来ていた「つなぎ服」をまだ着ていました。裾と袖には布を縫い足して、破れたところはていねいにつぎはぎしていました。その服は、デイジーとおとうさん、そしてふるさとをつなぐたったひとつのものだったからです。マーサや他の女の子たちは、キャベツの袋を縫い合わせてドレスを作っていましたが、デイジーはずっとそのつなぎ服を着ていたのです。
さらわれてからもう何年も過ぎていましたが、デイジーは、お父さんがまだ生きていると思い続けていました。彼女は頭のいい女の子です、お父さんがイッカボッグのことを信じていなかったことは知っていました。だからきっと今頃は、どこかの牢獄にいて、鉄格子の間から、デイジーが毎晩眠りにつく前に見ているのと同じ月を眺めているに違いないと信じていたのです。
そして、グランターばあさんのところに来てから6年目のある夜、
デイジーは、ホプキンズの双子を寝かしつけてから、マーサのとなりの寝床に横たわり、いつものように、色あせた金色の月を見上げました。そして気づいたのです、お父さんはもう生きていないだろうと思っていることに。その望みは、荒れた巣から飛び去った鳥のように、デイジーの心から消え去っていたのです。
涙があふれてきました、でもデイジーは、お父さんはきっともっといい場所、あの空の彼方の天国にお母さんといっしょにいる、そう自分に言い聞かせました。もうこの世にはいないのだから、お母さんとお父さんは、どこでも好きなところで暮らせる、デイジーの心の中にも。そう思うことで自分を慰めていたのです。そしてお母さんとお父さんの思い出を、いつまでも心の中に、消えない炎のように燃やし続けなければと思うのでした。
それでも、心の中だけというのはさみしいものです。もう一度帰ってきてほしい、そして抱きしめてほしい、それが一番の願いなのですから。
デイジーは、孤児院の他の子供達と違って、両親のことをはっきりと覚えていました。たくさん愛された思い出が、デイジーを支えていたのです。そして、両親からもらった優しさとハグを恋しく思う分、孤児院の小さな子供達にも、毎日優しさとハグをあげていました。
けれども、デイジーを支えていたのは、お母さんとお父さんの思い出だけではありませんでした。デイジーは、何か不思議な使命のようなものを感じていたのです。自分の運命だけでなく、コルヌコピアの運命までも変えてしまうような何か。その不思議な気持ちについては、誰にも、親友のマーサにさえ、話したことはありませんでした。でもそれが、デイジーを強くしていたのです。いつかきっとチャンスが訪れる、そう確信していました。