イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第34章

イッカボグ

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第三十四章:足をあと3本

「それほどの急用とはいったい何なのだ、」スピトルワースが、ぶつぶつ言いながら、スパイが待つ「青の客間」に入ってきました。

「公爵・・さま、」息を切らせながらその男は言いました、「みんなが・・言っております・・怪物・・が・・ぴょんぴょんと・・。」

「何だと?」

「ぴょんぴょんです、ご主人様、ぴょんぴょん飛んでいると!」息を荒げて男は続けました、

「気づかれたのです、足跡がぜんぶ、同じ、左足ばかりだと!」

スピトルワースは言葉を失って立ち尽くしました。庶民がそんなことに気づくほど賢いとは思ってもみなかったのです。何をかくそう、自分自身、今までに動物の世話などしたこともありません、自分の馬でさえです。動物がどんなふうに足跡を残すかなど、考えたこともなかったのです。

「何から何まで私が考えねばならんのか?」スピトルワースはそう怒鳴ると、客間を飛び出し、衛兵室へと向かいました。そこでは、ローチ少佐が、ワインを飲みながら、仲間とトランプをして遊んでいました。スピトルワースは、あわてて立ち上がった少佐を外に呼び出しました。

「ローチ、今すぐイッカボッグ特別防御軍を集めるのだ、」スピトルワースは低い声で言いました、

「そして北へ繰り出すのだ、賑やかにな。ショーヴィルからジェロボームまで、みんなの目にとまるようにするのだ。そして北に到着したら散らばって、沼地との境に、見張り台を設置せよ。」

「しかしー」ローチ少佐が口をはさみました、少佐は、のんびりと何不自由のない宮殿の生活にすっかり慣れてしまっていたのです。馬に乗るのは、時々、軍服を身に付けて、ショーヴィルの街を回る時くらいのものでした。

「口答えは許さん、すぐに動け!」スピトルワースが怒鳴りました。

「北部に防御隊などいないという噂が飛び交っている。今すぐ出発しろ、みんなが目を覚ますように、賑やかにな。それから、兵を二人置いていけ、二人だけでいい、別の仕事をやってもらう。」

そういうわけで、不機嫌なローチは、軍隊を集めにいき、スピトルワースは、ひとりで、牢獄に降りて行きました。

牢獄に近づくと、ダブテイルさんの声が聞こえてきました、まだ国家を歌い続けていたのです。

「黙れ!」スピトルワースが怒鳴りました、そして剣を抜くと、ダブテイルさんの牢屋を開けるようにと命じました。

大工の姿は、前にスピトルワースが見た時からはずいぶん変わり果てていました。デイジーに会うことができないとわかってから、ダブテイルさんの目つきは粗々しくなっていました。何週間もひげを剃っておらず、髪も伸び放題でした。

「黙れと言っておるのだ!」スピトルワースがまた怒鳴りました。大工が言うことを聞かず、まだ国家を口ずさんでいたからです。

「あと3本、足型が入り用になった、聞いておるのか?左足を1本と右足を2本だ。わかったか、大工?」

ダブテイルさんは、歌うのをやめて、かすれた声で言いました、

「それを彫ったら、娘に会わせてくださいますか、ご主人様?」

スピトルワースは笑みを浮かべました。こいつは頭がおかしくなってきている、と思ったからです。

そうでなければ、足型を作ったところで、今更、出してもらえるなどと思うわけがないからです。

「もちろんだ、」スピトルワースは答えました、「明日の朝いちばんで木材を届けさせる。しっかり働くのだぞ、大工。仕事が終わったら、娘に会えるからな。」

スピトルワースが牢獄を出ると、命じていたように、二人の兵士が待っていました。スピトルワースは、召使いのキャンカビーがうろうろしていないことを確かめると、兵士を二階の部屋へ連れて行き、鍵をかけました。

「これから命じる仕事をうまくやり終えたら、それぞれ50金貨を与えよう、」そう言われて、兵士たちは、有頂天になりました。

「いいか?お前たちは、朝昼晩と、エスランダ令嬢を監視するのだ。気づかれてはならん。そして令嬢がひとりきりになったときを狙って、誰にも見られずに、令嬢を連れ去るのだ。もし逃げられたり、誰かに見られたりしたら、この命令はなかったことにして、お前たちは死刑だ。」

「連れ去ったあと、どうしろとおっしゃるのです?」一人の兵士が聞きました、もう有頂天どころか、怖くてしかたない様子です。

「そうだな、」スピトルワースは、窓の外を見ながら、エスランダをどうしたものかと考えました。「宮殿の令嬢だ、肉屋のようにはいかん。イッカボッグも宮殿まで来て襲うことはできん・・・ふむ、こうしよう、」スピトルワースは、そのずる賢い顔に、にんまりと笑みをうかべて言いました、「エスランダ令嬢を郊外の私の屋敷にお連れしろ。到着したら知らせをよこすんだ、私もそちらに向かう。」

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