イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第24章

イッカボグ

 

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第二十四章:バンダロール

もうすぐデイジーの八歳の誕生日です。

デイジーは、バートをお誕生日会に誘おうと決めました。

バートのお父さんが死んでから、二人の間には、ぶあつい氷の壁ができたようでした。

バートはいつもロデリック・ローチといっしょでした。

でも、デイジーの誕生日は、それはバートの誕生日の3日前だったのですが、ふたりが仲直りをするチャンスだったのです。

デイジーは、お父さんに頼んで、招待状をビーミッシュ夫人に届けてもらいました。そして嬉しいことに、ビーミッシュ夫人は、誘いを受けてくれたのです。

バートはまだ学校ではデイジーとしゃべってくれませんでしたが、お誕生日には、きっと何もかもうまくいくと期待していました。

イッカボッグ税が始まってから生活は少しきつくなっていたので、デイジーとお父さんは、今までよりパンを少なめに買ったり、ワインを買うのをやめたりしていました。

でもその日、お父さんは、最後の一本になったジェロボームのワインを取り出し、デイジーはお小遣いをはたいて、バートの大好物の「天国の願い」を二つ、買っておきました。

ショーヴィルのベーカリー

お誕生日会は、気まずい空気で始まりました。

ダブテイルのおじさんが、ビーミッシュ少佐に乾杯しようと言ったとたん、ビーミッシュ夫人が泣き出してしまったからです。

四人は、食事を始めたのですが、誰も何を話していいかわからないままでした。

その時、バートが、デイジーにお誕生日プレゼントを買ってきたことを思い出したのです。

バートは、おもちゃ屋さんのウインドウで、バンダロール(その頃の人はヨーヨーと呼んでいました)を見つけて、お小遣いをはたいて、買っておいたのでした。

デイジーは、見たことのないおもちゃでしたが、バートに遊び方を教えてもらうと、あっという間に、バートよりも上手に遊べるようになりました。

ビーミッシュ夫人も、ダブテイルのおじさんも、ジェロボームのワインを飲むうちに、会話がはずんできました。

 

実は、バートもデイジーと仲直りしたかったのです。でもどうすればいいのかわからなかったのでした。

しばらくするうちに、ふたりは、何事もなかったかのように、ふざけあって笑い転げていました。死んだ親のこと、喧嘩してしまったこと、恐れ知らずのフレッド王のこと、そんなことは全部忘れていました。

子供は、大人より賢いのかもしれませんね。

ダブテイルのおじさんは、久しぶりにワインを飲んで、酔っぱらったのか、夫人の気持ちも考えずに、ビーミッシュ少佐を殺した怪物のことを話し始めました。

「私が言いたいのはね、バーサ、」ダブテイルのおじさんは大声を張り上げました。

「証拠はあるのかっていうことだよ、証拠を見せろって言ってるんだ、それだけだよ!」

「私の主人が殺されたというのが、その証拠だとは思わないの?」ビーミッシュ夫人の優しい顔がだんだんと引きつってきました、「かわいそうなノビー・ボタンのことも?」

「かわいそうなノビー・ボタン?」ダブテイルのおじさんは繰り返しました、

「かわいそうなノビー・ボタン?それを言うなら、ノビー・ボタンがほんとにいたという証拠が見たいよ、いったいそれは誰だ?どこに住んでいたんだ?それにあの年老いた未亡人はどこへ消えたんだ?街中の街で、ボタン一家なんて出会ったことがあったかい?

もっと言えば、もっと言わせてもらえば、なんで靴と骨しか見つからなかったのに、ノビー・ボタンの棺は、あんなに重かったんだ?」

デイジーは怖い顔をして、お父さんを止めようとしましたが、無駄でした。またワインをがぶっと飲むと、お父さんは言いました、

「つじつまが合わんのだ、バーサ、話がおかしいんだよ!これはたとえばの話だが、たとえばだぞ、気の毒なビーミッシュが馬から落ちて首を折って死んでしまったのをいいことに、スピトルワースがそれを利用して、イッカボッグが殺したことにでっちあげて、たくさんの金貨を手に入れようとした、とは考えられないか?」

怒りに満ちた顔でゆっくりと立ち上がったビーミッシュ夫人が、ささやきました。その声が、あまりにも冷たかったので、デイジーは、鳥肌が立ちました、

「私の主人は、コルヌコピアで一番の騎手だったわ。あの人が馬から落ちるなんて、あなたが、斧で自分の足を叩き切るようなものよ、ダン・ダブテイル。恐ろしい怪物が主人を殺したに違いないのよ。言葉に気をつけなさい、イッカボッグを信じないものは、裏切り者よ。」

「裏切り者?!」ダブテイルのおじさんは嘲る(あざける)ように言いました、

「しっかりしろよ、バーサ、君までこの意味不明な裏切り騒動を信じるのかい?ほんの何ヵ月か前まで、イッカボッグを信じない者が正気だと言われていたのに、今は、裏切り者なのか!」

「そのころは、みんなまだイッカボッグがほんとにいるって知らなかったからよ!」

そう怒鳴りつけると、ビーミッシュ夫人は言いました、「バート、帰りましょう!」

 

「待って、待って、帰らないで!」デイジーは叫びました。そして椅子の下に置いてあった小さな箱を取ると、ふたりを追っかけて庭に出ました。

「バート、見て!「天国の願い」を買ってあるの、お小遣いはたいて、買っておいたのよ!」

デイジーは知りませんでした。

バートが、「天国の願い」を見ると、お父さんが死んだ日のことを思い出すということを。

あの日、宮殿の台所で、「おとうさんに何かあったら、知らせが届くはずだから大丈夫よ」と言って、お母さんがくれた「天国の願い」が、バートが最後に食べた「天国の願い」だったのです。

バートは、デイジーの箱をちょっと押し返そうとしただけだったのです、でもデイジーはその箱を落としてしまったのです。

高価な焼き菓子は、花壇に散らばって、泥だらけになってしまいました。

デイジーは大声で泣き出しました。

「焼き菓子のことしか気にしてないんだね!」

バートはそう叫ぶと、庭の扉をあけて、おかあさんと出て行ってしまいました。

天国の願い

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