イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第25章

イッカボグ

 

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第二十五章:スピトルワース公の悩み

スピトルワース公には不都合なことなのですが、

イッカボッグについて、疑いの念を持っていたのは、ダブテイルのおじさんだけではありませんでした。

コルヌコピアは、少しずつ貧しくなってきていました。裕福な商人は、問題なくイッカボッグ税を納めることができました。税を払った分、売っているものを値上げすればよかったからです。

けれども、貧しい人々にとっては大変なことでした。マーシュランドでは、子供達がやせ細っていきました。

スピトルワースは、国中の街や村に、スパイを送り込んでいました。

そして最近では、税金が何に使われているのか、そして国が、まだ怪物の危険にさらされているのか、その証拠を求める者たちが出てきたと、報告されるようになってきたのです。

コルヌコピアの国は、その街その街で、住んでいる人々の気質が独特だと言われていました、

ジェロボームの人々は、喧嘩っ早くて夢想家、

クルズブルグの人々は、礼儀正しくて平和愛好家、

ショーヴィルの人々は、鼻高で自信家、

そして、バロンスタウンの人々は、物おじせず、正直な人々だと言われていました。

そして、イッカボッグに対する反論が、最初に大きく沸き起こったのも、バロンスタウンだったのです。

肉屋のタビー・テンダーロインは、その日、タウンホールで集会を開きました。

タビーは、「イッカボッグを信じない」とは言わないように気をつけながら、集まった人たちに、嘆願書に署名をするように求めたのです。それは、王様に、イッカボッグ税がこれからも必要であるという証拠を見せてほしいという嘆願書でした。

集会が終わるなり、そこに参加していたスピトルワースのスパイは、馬に飛び乗ると南へと走り出し、真夜中に宮殿に到着しました。

召使に起こされたスピトルワースは、急いでフラプーン公とローチ少佐を呼び出し、三人はスピトルワースの寝室に集まって、スパイの報告を聞いたのです。

スパイは、裏切り者の集会が開かれたことを報告し、地図を広げると、首謀者たちの家に印をつけていきました。

「よくやった、」ローチがうなりました。

「そいつらを全員、裏切り者の罪で逮捕し、牢屋にぶちこめばいいだけです!」

「そんな簡単なことではないぞ、」スピトルワースがいらいらして言いました。

「集会には二百人も参加していたのだ。全員を入れるだけの牢屋がない、それがひとつ、

そしてもうひとつは、そんなことをすれば、イッカボッグがいることを証明できないからだと言われるだろう。」

「では、みんな撃ち殺してしまえばいい、」フラプーンが言いました、「ビーミッシュの時のように包んで、沼地まで運んでおけば、みんなイッカボッグがやったと思うではないか。」

「イッカボッグが銃で撃ち殺したとでもいうのか?」スピトルワースがカッとして言いました。「そして二百人の死体をマントで包んだと?」

「私達の計画がお気に召さないのなら、公爵、あなたに、何かうまい考えがおありか?」ローチは言いました。

それが何もなかったのです。スピトルワースは、いくらそのずるがしこい脳みそをしぼっても、どうすれば、文句を言わずに税金を払うように国民を脅すことができるのか、思いつきませんでした。

イッカボッグが本当にいるという証拠さえあればいいのです。でもそれをどこで手に入れることができるでしょう?

ふたりを帰したあと、スピトルワースが、ひとりで暖炉の前を歩き回っていると、また誰かがドアを叩きました。

「今度は何だ?」またカッとして言いました。

入ってきたのは、召使のキャンカビーでした。

「何の用事だ?さっさとしてくれ、忙しいんだ!」スピトルワースは言いました。

「恐れ入ります、公爵さま、」キャンカビーは言いました。

「実は、さきほど、お部屋のそばを通りかかったときに、あなた様とフラプーン公とローチ少佐が、バロンスタウンの裏切り者集会のことをお話になっているのを、ついつい聞いてしまいましたで。」

「ついついだと?」脅すような声でスピトルワースが言いました。

キャンカビーは続けました、

「ご主人様にはお知らせしたほうがいいだと思いまして。実はこの「街中の街」にも、バロンスタウンの裏切り者たちと同じ考えの男がいるだです。肉屋たちと同じように、”証拠をみせろ”と言ってるようなやつだです。それ聞いたときは、裏切りもんじゃねえかと思いましたです。」

「それはもちろん、裏切り行為だぞ!」スピトルワースは言いました。

「誰がそのような事を言っているのだ、ここは王様のお膝もとだぞ!王様に仕える身で、王様の言葉を疑う不届き者は誰なのだ?」

「それは、その・・」そわそわしてキャンカビーが言いました、「これは値打ちのある情報だと、値打ちがあるですので・・」

「名前を言え!」召使の胸ぐらをつかんで、スピトルワースは睨みつけました、「そうすれば、それが褒美に値するかどうか決めてやろうではないか、さあ、名前を言え!」

「ダ、ダ、ダン・ダブテイルですだ!」召使が言いました。

「ダブテイル・・ダブテイル・・聞いた名前だな、」そう言って、手をはなすと、召使は、よろめいて、そばのテーブルに倒れこんでしまいました。

「確かそういう名前の裁縫師が・・・?」

「それはその男の妻ですだ、死んじまった、」体を起こしてキャンカビーが言いました。

「そうだ、」スピトルワースが、ゆっくりと言いました、「墓地のそばの家だ、旗も王様のポスターも、何もない家だ。お前はどこでその裏切り行為を知ったのだ?」

「ついつい聞いてしまいましただ、ビーミッシュ夫人が、皿洗いの女にそう言っていましただ。」キャンカビーは言いました。

「お前は、ついつい色んなことを聞いてしまうのだな、キャンカビー?」スピトルワースはそう言いながらポケットをさぐると金貨を出して、「よろしい、褒美に十金貨をやろう。」

「ありがたくござります、ご主人様。」深くお辞儀をして召使は言いました。

「待て、」キャンカビーが出て行こうとすると、スピトルワースが言いました、

「そのダブテイルという者、職は何だ?」

スピトルワースは、その男がいなくなっても、王様が困らないかどうか、確かめたくて聞いたのです。

「ダブテイルですか?大工ですだ。」キャンカビーはそう言うと、お辞儀をしながら部屋を出ていきました。

「大工、」スピトルワースは、繰り返しました、「大工・・」

扉が閉まったとき、またひとつ、スピトルワースに、素晴らしいアイデアがひらめきました。

あまりにも素晴らしいので、スピトルワースはよろめきそうになり、ソファーの背をしっかりとつかんだのでした。

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