イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第57章

イッカボグ

 

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第五十七章:デイジーの計画

沼地には、まだ深く雪が積もっていました。

イッカボッグは出かけるとき、岩を転がして洞窟の入り口をふさぐことをやめていました。デイジー、バート、マーサ、そしてロデリックが、イッカボッグの好きな、沼地のキノコを採る手伝いをするようになっていたからです。そして出かけたときには、自分たちのために荷馬車から凍った食べ物を持って帰ってきました。

四人の人間はみんな、日に日に強く元気になっていきました。イッカボッグもどんどん太ってきましたが、それは生まれ来る時が近づいていたからでした。生まれ来る時、イッカボッグは四人を食べるつもりだと言っていたので、バート、マーサ、そしてロデリックは、イッカボッグのおなかが大きくなっていくのがあまり嬉しくはありませんでした。特にバートは、イッカボッグが自分たちを殺すつもりだと思っていました。今となっては、お父さんが事故で死んだというのも間違いだったに違いない、イッカボッグは本当にいたのです、だから明らかに、ビーミッシュ少佐はイッカボッグに殺されたのです。

キノコ採りにいく途中、イッカボッグとデイジーは、よくみんなより少し前を歩いて、ふたりだけでおしゃべりしていました。

「何を話しているんだろ?」イッカボッグが大好きな、小さくて白いキノコを探しながら、マーサが二人の少年にささやきました。

「仲良くなろうとしてるんだよ、」バートが答えました。

「自分だけ食われないようにするためなんじゃないのか?」ロデリックが言いました。

「何てひどいことを言うの、」マーサがきつく言い返しました。

「デイジーは、孤児院でみんなの世話をしてたのよ。他の子たちをかばって罰を受けたこともあったのよ。」

ロデリックは不意をつかれました。人はみんな悪人だと思え、とお父さんにいつも教えられていたからです。しっかり生きていくためには、どこにいても、一番大きくて、一番強くて、一番手ごわいやつになれと。長い間身についていた習慣を変えるのは、たやすくありません。でも、お父さんが死んで、お母さんと兄弟たちが牢屋に入れられている今となっては、ここにいる3人の友達に嫌われたくはありませんでした。

「ごめん、」ロデリックがぼそりと言うと、マーサはにっこりと笑ってくれました。

さて、バートが言ったことはあたっていました。デイジーはイッカボッグと仲良くなろうとしていたのです。でも、それは、自分を救うためではなく、3人の友達を救うためだけでもありませんでした。それは、コルヌコピアの国を救うためだったのです。

そしてこの日の朝、デイジーと怪物は、みんなより少し前を歩いていました。デイジーは、溶けかけた氷を破って、スノードロップが何本か芽を出しているのを見つけました。春が近づいています。それは、沼地に兵士たちが戻ってくるという意味でもありました。デイジーは、船酔いでもした時のように、気分が悪くなりました。絶対に失敗は許されない、とても大切なことをしようとしていたからです。デイジーは話し始めました:

「ねえイッカボッグ、あなたが毎晩歌っているあの歌知ってるでしょ?」

木の幹を持ち上げて、キノコが下に隠れていないか探しながら、「知ってるよ、知らなかったら歌えないもんね?」イッカボッグは、そう言ってくすっと笑いました。

「そうね。あの歌の中で、子供達が、優しく、知恵深く、勇ましくなってほしいって歌ってるでしょ?」

「歌ってる、」イッカボッグはそう言うと、小さな銀色っぽい灰色のキノコを採ってデイジーに見せました、「これはすごいよ。銀色のは、この沼地ではなかなか見つからない。」

「よかったわね、」デイジーが言いました。イッカボッグは、そのキノコをポンっとカゴに放り込みました。

「そして最後のほうでは、あなたの赤ん坊が人を殺すようにって歌ってるのよね。」デイジーが言いました。

「歌ってる、」イッカボッグはまたそう答えると、枯れた木から黄色っぽいキノコのかけらをつまみ取ると、デイジーに見せました、「これはだめ。毒があるから、絶対に食べてはだめ。」

「わかったわ、」デイジーはそう答えると、息を大きく吸い込んで言いました、「でも、優しくて知恵があって勇ましいイッカボッグが本当に人を食べちゃうのかな?」

銀のキノコを採ろうとかがみこんだイッカボッグが止まって、デイジーを覗き込みました。

「あんたを食べたいとは思ってないよ、でもそうしないと私の赤ん坊が死んでしまう。」イッカボッグは言いました。

「赤ん坊には希望が必要って言ってたでしょ、」デイジーが言いました。「もし、生まれ来る時がきて、赤ん坊がお母さん、か、お父さん、ごめんね、どう言っていいかわからないんだけど、」

「私は赤ん坊のイッカーになって、赤ん坊は私のイッカボッグルになるの。」イッカボッグが言いました。

「そう、じゃあ、もしあなたの、あなたのイッカボッグル達が産まれ来る時、たくさんの人がイッカーを愛していて、幸せになってほしいと思っていて、そしてずっと仲良くいっしょに暮らすんだってわかったら、他の何よりも希望でいっぱいになるんじゃない?」

イッカボッグは倒れた木の幹に腰を下ろすと、長い間黙り込んでいました。バート、マーサ、そしてロデリックは、離れたところから見ていました。デイジーとイッカボッグの間で、何かとても大切なことが起こっているとわかりました。だから、知りたかったけれど、そばには近寄らなかったのです。

そしてついにイッカボッグが口を開きました:

「たぶん・・・たぶんあなたを食べない方がいいのかもしれないね、デイジー。」

イッカボッグがデイジーを名前で呼んだのは、これが初めてでした。デイジーは、イッカボッグの手を握りました。そしてふたりは笑顔をかわしました。イッカボッグが言いました:

「生まれ来る時がきたら、あなたとあなたの友達が私を囲んでくれる、そうすれば、私のイッカボッグル達は、あなたたちが友達だとわかって生まれ来る。そしてそのあと、あなた達は、この沼地でずっと私のイッカボッグル達と暮らしてね。」

「あのね、そうなると心配なことがあるの、」デイジーはイッカボッグの手を握ったまま、気をつけて言葉を選びました、「荷馬車の食べ物はもうすぐなくなってしまうわ。ここには、私たち四人とイッカボッグル達が食べていくのに十分なキノコがないんじゃないかと思うの。」

デイジーは、イッカボッグが死んでしまったあとのことを、そんな風に話すのは、少し気まずい感じがしましたが、イッカボッグは、全然気にしていない様子でした。

「じゃあどうすればいい?」心配そうな大きな目でデイジーに尋ねました。

「イッカボッグ、」デイジーは言葉を選んで話しました、「コルヌコピアの国中で人々が死んでいってるの。食べるものがなくて死んじゃうの、殺される人もいるわ。何もかも、ほんの少しの邪悪な人間が、あなたがみんなのことを殺そうとしていると信じ込ませたからなの。」

「殺そうと思っていたよ、あなた達四人に会うまではね、」イッカボッグが言いました。

「でも今、あなたは、変わったわ、」デイジーが言いました。立ち上がってイッカボッグの前に来ると、両手を握りました。「人々は、少なくともほとんどの人々は、惨酷じゃないし、邪悪でもないの。みんな悲しんでいて、疲れ切っているのよ、イッカボッグ。そしてもしみんながあなたのことを知ったら・・親切で、穏やかで、キノコしか食べないんだって知ったら、怖がることなんてないってわかると思うの。みんなあなたとあなたのイッカボッグル達が、沼地を出て、草原で暮らしてほしいってきっと思うわ。あなたの祖先がそうしていたように、もっと大きくておいしいキノコがたくさんある草原で。そしてあなたの子孫たちは、ずっと私たちと仲良く暮らしていくのよ。」

「沼地を出て、銃や槍を持った人間たちのいる場所へ行けと言ってるの?」イッカボッグが言いました。

「イッカボッグ、お願い、聞いてちょうだい、」デイジーは必死でした。「もし、イッカボッグル達を愛して、守りたいと思っている何百人という人々に囲まれて生まれ来るなら、今までのどんなイッカボッグル達よりもたくさんの希望を注いであげられると思うわ。でももし私たち四人だけが沼地に残って飢え死にしてしまったら、イッカボッグル達にどんな希望が残るっていうの?」

怪物は、デイジーをじっと見つめました。バート、マーサ、そしてロデリックは、いったい何が起こっているんだろうと戸惑いながら、ずっと見ていました。

すると、イッカボッグの目に、ガラスのりんごのように大きな涙が溢れました。

「人間のところへ行くのは怖い。私もイッカボッグル達も、きっと殺されてしまう。」

「そんなことない!」デイジーはそう言うと、握っていた手を離して、イッカボッグの毛むくじゃらのほっぺたに両手をあてました。沼地の長い雑草のような毛の中に、デイジーの指が埋まってしまいました。「イッカボッグ、私は誓います。私たちがあなたを守る。あなたの生まれ来るは、今までで一番大事な出来事になるのよ。イッカボッグの国を蘇らせるの・・・そしてコルヌコピアの国も。」

コルヌコピアの国

 

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