本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。
本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。
(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。
「イッカボッグ」第五十五章:スピトルワースが王様の機嫌を損ねる
郵便馬車の暴走事件があって以来、スピトルワースは同じことが起こらないようにと対策を取っていました。王様には内緒で、新しい決まりを作ったのです。それは、主任相談役が、裏切り者調査という理由で、みんなの手紙を開けて読んでもいいというものでした。その決まりには、裏切り行為についても、次のように書かれていました、
イッカボッグはいないと言うと裏切り行為になります。
フレッドは立派な王様ではないと言うと裏切り行為になります。
スピトルワース公とフラプーン公の悪口を言うと裏切り行為になります。
イッカボッグ税が高いと言うと裏切り行為になります。
そして、最後に新しく足されたのは、
コルヌコピアの国が前に比べて幸福な国ではなくなったと言うと裏切り行為になります。
みんな本当のことを書くのが怖くなって、手紙を送らなくなりました。それどころか都を訪れる人もほとんどいなくなってしまいました。スピトルワースの思うつぼでした。それからスピトルワースは、次の手を考えました。それは、フレッドにたくさんのファンレターを送ることでした。筆跡が同じだとばれてしまうので、スピトルワースは、何人かの兵士を部屋に閉じ込めて、紙と羽ペンを渡し、言われた通りに手紙を書くように命じました。
「王を褒めたたえるのだ、」主任相談役のローブをつけたスピトルワースは、兵士たちの前を行ったり来たりしながら言いました。「今までで一番優れた支配者だと書け。私のことも褒めるのだ。スピトルワース公がいなかったら、コルヌコピアの国はどうなっていたことかと書け。イッカボッグ特別防御軍のおかげて、たくさんの人がイッカボッグに殺されずにすんだと書け。そしてコルヌコピアの国は今だかつてないほどに豊かになったと書け。」
そういうわけで、フレッドは、たくさんの手紙を受け取るようになったのです。そこには、王様がどれほどすばらしいか、そして、国の人々が幸福で、イッカボッグとの戦いも、とても順調に進んでいると書かれていました。
「何もかも、とてもうまくいっているようだ!」昼食の席で、フレッド王は、受け取った手紙をふたりの公爵に見せながら、嬉しそうに言いました。
偽ファンレターが届くようになってから、王様は前よりもずっと楽しそうでした。厳しい冬で地面が凍り付いて危険なので、狩りには出られなかったのですが、仕立てたばかりの、濃いオレンジ色のシルクにトパーズのボタンがついた豪華な衣装がとても気に入ったので、王様はより一層機嫌がよかったのです。
暖炉の火が赤々と燃え、テーブルにはいつものように贅沢な食べ物が山のように置かれていました。そんな部屋から、窓の外にふりしきる雪を眺めるのは、とても心地よいことでした。
「スピトルワース!そんなにたくさんのイッカボッグが退治されていたとは、知らなかったぞ!というより、イッカボッグはてっきり一頭だけだと思っていたぞ!」
「あ~、はい、陛下、」そういうとスピトルワースは、格別美味しいクリームチーズに食らいついているフラプーンを睨みつけました。スピトルワースは、とても忙しかったので、王様に届ける偽ファンレターの確認をフラプーンに任せていたのです。「ご心配なさらぬようにと思ってのことだったのですが、実は、怪物は、その・・」軽く咳払いをしてスピトルワースは言いました、「子供を産んだのです。」
「なるほど、」フレッドが言いました、「とにかく、順調に退治しているというのは、とてもいい報せだ。ひとつ剥製(はくせい)を作ってはどうだ、国民のために、展示会を開くのだ!」
「ああ・・はい、陛下、それは素晴らしいお考えです、」憤りを抑えて、スピトルワースは言いました。
「だが、ひとつわからんことがある、」手紙を見て、フレッドは、しかめっ面をしました、「フラウディシャム教授の話では、一頭のイッカボッグが死ぬと、二頭になるということではなかったか?今のように殺していると、数がどんどん倍になっていくということではないのか?」
「あ~・・いえ、陛下、それは、そうではなくて、」ずるがしこい頭をフル回転させてスピトルワースが言いました、「実はそうならないようにする方法があって、それは、え~っと、それは、」
「最初に頭をぶん殴るんです、」フラプーンが口をはさみました。
「最初に頭をぶん殴る、」スピトルワースがうなづきました、「そうです、まず殺す前に、そばに寄って気絶させるのです、陛下、それで、その、そうすれば、倍にならずにすむ・・ようなのです。」
「そんな素晴らしい発見を、なぜ今まで黙っていたのだ、スピトルワース?」フレッドが大声を上げました。「それでこっちのものだ、もうすぐコルヌコピアの国から永遠にイッカボッグがいなくなるかもしれん!」
「その通りです、陛下、素晴らしいことですな、」スピトルワースはそう言いながら、横で笑っているフラプーンをぶん殴ってやりたい気持ちでした。「しかし、イッカボッグはまだたくさんおりますから・・・」
「それでも終わりが見えてきたということに変わりはないぞ!」嬉しそうにそう言うと、フレッドは手紙を横に置き、またナイフとフォークを手にしました。「しかし、ローチ少佐も、勝利が目の前だというのに、イッカボッグに殺されてしまうとは、実に気の毒なことだ。」
「実に気の毒なことでしたな。」もちろん、スピトルワースは、ローチ少佐が突然姿を消したことについて、沼地でイッカボッグと戦って命を落としたと、王様に説明していたのです。
「それでわかったぞ、」フレッドが言いました。「召使たちがずっと国家を歌っているのが不思議だったのだ、お前にも聞こえるだろう? 陽気でいいのだが、どうも少し変わりばえしないと思っていたのだ。みんな、イッカボッグ退治の成功を祝って歌っているのだな?」
「そうに違いありませんな、陛下、」スピトルワースが答えました。
実は、国家を歌っていたのは、召使ではなく、牢獄の囚人たちでした。でもフレッドは、宮殿の地下の牢獄に50人ほどの囚人が監禁されていることは、知らなかったのです。
「祝いの舞踏会を開催しようではないか!」フレッドが言いました、「ずいぶん長い間舞踏会を開いていないからな、最後にエスランダ令嬢と踊ったのはいつのことだったか。」
「修道女は踊りませんがね、」スピトルワースが皮肉っぽく言いました。そして急に立ち上がりました。「フラプーン、行くぞ。」
ふたりの公爵が扉に向かっていくと、王様が命じました、「止まれ。」
ふたりは振り返りました。フレッド王は、急に不機嫌な顔をしていました。
「誰が席を立ってよいと言ったのだ?」
ふたりは、ちらりと視線を交わすと、スピトルワースがお辞儀をし、フラプーンもすぐにお辞儀をしました。
「陛下のお許しを賜りたく存じます。」スピトルワースが言いました。「ただ、陛下の素晴らしいご提案に従って、イッカボッグの剥製を作る準備をせねばと思い、急がなければ、その、腐ってしまうかもしれませんので。」
「そうだとしても、」と、首にさげた金のメダルをもて遊びながら、フレッドが言いました。王様が怪物と戦っている様子が彫ってある、あの金のメダルです。「私は王だ、スピトルワース、お前の王なのだぞ。」
「もちろんでございます、陛下、」もう一度お辞儀をして言いました。「陛下にお仕えするのが私の使命でございます。」
「よし、」フレッドが言いました、「よく覚えておくがいい。一刻も早くイッカボッグの剥製を作らせろ、国中に披露するぞ。そして祝賀舞踏会の相談も進めねばならん。」