本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。
本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。
(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。
「イッカボッグ」第五章:デイジー・ダブテイル
ダブテイル夫人が亡くなってから何か月か過ぎたころ、
王様の使用人たちは、色々と噂をしていました。
ダブテイル夫人が死んだのは、王様のせいだという人たちと、
王様はよく事情を知らなかったので、悪くはないという人たちと、
二手に分かれていたのでした。
ビーミッシュ夫人は、王様は悪くないと思っていました。
ビーミッシュ少佐は、王様が毎日楽しそうに狩りに出かけている姿を見ていましたし、
ダブテイル家が、引っ越しをさせられてしまったことも知っていましたが、
王様がやらせたことではないと思うようにしていましたし、王様はきっと主任裁縫師の死を、気の毒に思っているに違いないと信じていました。
ダブテイル家が引っ越した家は、墓地のすぐ横で、生い茂った木々が、お日様をさえぎって、
いつもうす暗い家でした。でも、デイジーの部屋の窓からは、おかあさんのお墓がよく見えたのでした。
引っ越してしまってから、デイジーとバートは、今までほど顔を合わせることがなくなりましたが、
バートは、しょっちゅうデイジーを訪ねて行き、前より小さくなった庭でいっしょに遊んでいました。
デイジーのおとうさんが、その家のことをどう思っていたかは、わかりません。誰にも何も言わなかったからです。
毎日、静かに仕事をして、おかあさんをなくしてしまったデイジーの世話をしていたのです。
デイジーはお父さんの大工仕事を手伝うのが大好きで、服が汚れることなど全然気にしない女の子でしたが、
お母さんのお葬式が終わってからは、毎日違うドレスを着て、お母さんのお墓に行き、花束を供えていました。
ダブテイル夫人は、いつも綺麗なドレスを作ってくれて、デイジーに、「レディらしくしましょうね」と言っていたのです。
それから一年ほどが過ぎると、もうドレスは小さくて着られなくなったのですが、デイジーは、大切にたんすにしまっておきました。
街の人たちは、デイジーやデイジーのおかあさんに起こったことなど忘れてしまいました。
デイジーも、今までと何も変わらないふりをしていました。
お父さんの仕事を手伝い、学校の勉強をして、そして親友のバートと遊んでいました。
でも、ふたりは、それ以来、デイジーのお母さんのことも、王様のことも、話すことをしませんでした。
デイジーは、毎晩、月の光に照らされたお母さんの白いお墓をじっと見つめながら、眠りについたのです。