イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第49章

イッカボグ

 

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第四十九章:孤児院からの脱出

グランターばあさんの孤児院にいる子供達は、大抵、ばあさんに追い出されるまでずっとそこで暮らしました。大人を預かっても金貨はもらえません、いじめっ子ジョンの場合は、ばあさんの役に立っていたので特別でした。金貨がもらえる間は、子供たちが逃げ出さないようにと、ばあさんは、全部の扉に鍵と錠を付けていました。鍵を持っているのはいじめっ子ジョンだけでした。前に、その鍵を盗もうとした少年は、痛めつけられて、何ヵ月も怪我が治りませんでした。

デイジーとマーサは、自分たちが追い出される日が近いことがわかっていました。でも、自分たちのことよりも、あとに残される小さな子供達のことがもっと心配でした。バートとロデリックも、同じ頃に出て行かなければいけないと思っていました。

ジェロボームの街に、今でもバートの似顔絵がのっている「指名手配」のポスターが貼られているのかどうか、確かめに行くことはできませんでしたが、きっとそのままだろうと思っていました。そのうちグランターばあさんといじめっ子ジョンが、同じ屋根の下に、100金貨の値打ちがある逃亡者が暮らしていることに気づくかもしれないと、四人は、毎日びくびくしていました。

バート、デイジー、マーサ、そしてロデリックの四人は、毎晩、子供達が寝静まってから、コルヌコピアで起こっていることについて知っていることを話し合いました。集まるのは、いじめっ子ジョンが決して近寄らない場所、台所のキャベツ倉庫でした。

初めての集まりで、ロデリックはマーシュランドのことをからかったり、マーサの訛りを笑ったりしたのですが、デイジーにこっぴどく怒られて、それからはしなくなりました。

固くて臭いキャベツの山の中、一本のロウソクをかこんで寄り添った四人はそれぞれに話しました:

デイジーは自分がさらわれたことを少年たちに話しました。バートは、お父さんがもしかしたら何かの事故で死んだのではないかと思っていることを話しました。ロデリックは、闇の使いたちが街を襲撃して、人々に、イッカボッグの仕業だと思わせていると説明しました。そして、郵便が止められていたこと、ふたりの公爵が、国の金貨を、荷車一杯に盗んでいること、何百人もの人々が殺されていること、そしてスピトルワースの役に立ちそうな人たちは、殺されずに牢獄に入れられていること、を話しました。

けれども、二人の少年には、それぞれ隠していることがありました。何を隠しているのか、お話しましょう。

ロデリックは、ビーミッシュ少佐が、何年も前のあの時、沼地で誤って撃たれたのだろうと思っていました、でもバートにそのことを話していませんでした。話したら、なぜもっと早く言ってくれなかったのかと責められることが怖かったからです。

そしてバートは、闇の使いたちが使っている巨大な足を作っているのはダブテイルさんだと思っていましたが、それをデイジーには話していませんでした。足を作ったあと、ダブテイルさんは殺されたに違いないと思っていたのです。だから、お父さんは生きているという希望を、デイジーに持たせたくなかったのです。ロデリックは、闇の使いたちが使っている足型を彫っているのが誰なのか知りませんでしたし、デイジーは、まさかお父さんが襲撃の手助けをしているなんて思いもよらなかったのです。

「じゃあ兵士たちはどうなの?」キャベツ倉庫に集まるようになって六回目の夜、デイジーがロデリックに尋ねました、「イッカボッグ特別防御軍と衛兵たちよ、みんな共犯なのかしら?」

「ちょっとはね、」ロデリックが答えました、「でも全部を知っているのは一番上の人たちだけだよ、ふたりの公爵と俺の・・俺の父さんの後任者、」そう言うとロデリックは黙り込んでしまいました。

「兵士たちはイッカボッグがいないってことを知っているはずだよ、」バートが言いました、「こんなに長い間、マーシュランドに駐屯しているんだからね。」

「でもイッカボッグは本当にいるのよ、」マーサが言いました。ロディは笑いませんでした。会ったばかりだったら、笑っていたかもしれませんが。デイジーはいつものように聞かないふりをしました、けれどもバートは優しく答えました、「僕だって信じていたんだよ、本当のことを知るまではね。」

四人は、また明日も集まろうと決めて、寝床に戻りました。それぞれが、国を救おうという闘志に燃えていました。けれど、武器なしで、スピトルワースの軍隊と戦うのは到底無理だという現実に引き戻されるのでした。

次の日、七回目の夜に女の子たちがキャベツ倉庫に入ってきた時、バートは、ふたりの表情を見て、何かよくないことが起こったのだとわかりました。

「大変よ、」マーサが倉庫の扉を閉めるなり、デイジーがささやきました、「さっき、グランターばあさんといじめっ子ジョンが話しているのを聞いたの、明日の午後に、孤児院調査官が来るって。」

少年たちは、ひどく心配になって、顔を見合わせました。訪問者に、ふたりが逃亡者だと気づかれては一番困るからです。

「ここから出なきゃ、」バートがロデリックに言いました、「今。今夜のうちに。ふたりいれば、いじめっ子ジョンから鍵を奪い取れる。」

「よし、やろう、」こぶしを握り締めてロデリックが言いました。

「マーサと私もいっしょに行くわ、」デイジーが言いました、「いい考えがあるの。」

「どんな考え?」バートが尋ねました。

「四人で、北に向かうの、マーシュランドの駐屯地よ、」デイジーが言いました、「マーサが道を知ってるから、案内してもらえるわ。あっちに着いたら、ロデリックが話してくれたことを全部、兵士たちにも伝えるの、イッカボッグが作り話だってこと・・」

「でも作り話じゃないわ、」マーサが言いましたが、みんなは、知らんぷりをしました。

「それに、人々が殺されていることや、スピトルワースとフラプーンが国から盗んでいることも。私たちだけじゃスピトルワースをやっつけるのは無理だけど、きっと中にはわかってくれる兵士がいて、国を取り戻すのに協力してくれるはずよ!」

「それはいい考えだと思うけど、」バートはゆっくりと言いました、「でも、君たちは来ないほうがいいと思う、危険すぎるよ。ロデリックと僕だけでやる。」

「だめよ、バート、」デイジーの目は真剣でした。「四人いれば、二倍の兵士に話ができるわ。お願いだから。早く何とかしないと、ここにいる子供達はみんな、冬が終わる前に、あの墓地に埋められることになってしまう。」

バートが納得するまでに、しばらく議論が続きました。バートは、女の子たちの体力では、旅をするのは無理だと心配していたのです。でも最後には賛成しました。

「わかった。ベッドから毛布を取ってくるんだ、寒くて長い道のりになるからね。ロディと僕はいじめっ子ジョンのほうを片付けてくる。」

そしてバートとロデリックはいじめっ子ジョンの部屋に忍び込みました。あっという間に決着がつきました。その夜、グランターばあさんが、夕食にワインを二本飲み干していたのも好都合でした。でなければ、殴ったり叫んだりの音で、きっとばあさんは、目を覚ましていたことでしょう。

ロデリックは、あざと血まみれになったいじめっ子ジョンのブーツを奪いました。そして部屋に閉じ込めたあと、ふたりは、大急ぎで、正面玄関のあたりで待っていた女の子たちと合流しました。扉にかかっていた鍵や錠を全部外すのに、5分ほどかかりました。

扉をあけると、冷たい突風が四人を包みました。振り返って、最後にもう一度孤児院を見ると、デイジー、バート、マーサ、そしてロデリックは、すり切れた毛布を肩にはおって通りに抜け出し、マーシュランドへと向かったのです。雪がひらひらと舞い降りていました。

 

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