本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。
本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。
(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。
「イッカボッグ」第四十五章:バートがジェロボームに
バートは、その頃、スピトルワースが、コルヌコピアの国中に自分のことを指名手配しているとは知りませんでした。
街の門を出るとき、衛兵に忠告されたように、バートは田舎道や裏道だけを通るようにしました。ジェロボームには行ったことがありませんでしたが、フルーマ川に沿って進めば、間違いないと考えていました。
髪はくしゃくしゃで、靴は泥だらけになって、バートは畑を横切り、夜は溝を見つけて眠りました。そして3日目の夜、何か食べるものをさがそうと、クルズブルグの街にこっそり入りこんだ時、バートは、初めて自分の指名手配の似顔絵がチーズ屋の窓に張られているのを見たのです。
幸い、似顔絵に描かれていたのは、こぎれいな笑顔の若者で、そばのガラスに写った汚い浮浪者の姿とは似ても似つかないものでした。けれども、驚くことに、そこには、捕えた者には、報奨金100金貨と書かれていたのです。
バートは暗い道を急ぎました。途中で、やせ細った犬や、板を張られた窓が目に入りました。1-2度、同じようにゴミをあさっている汚い浮浪者の姿を見かけました。そしてついに、カビかかった固いチーズのかたまりにありつくことができたのです。ミルク工場の裏にあった樽にたまった雨水を飲むと、バートはクルズブルグを出て、また田舎道に戻りました。
歩いている間中、バートはお母さんのことを思い続けました。母さんは生きている、何度も何度もそう言い聞かせました。あいつらが母さんを殺すはずがない、母さんは王様のお気に入りだ、殺すわけがない。
お母さんが死ぬなんて決して考えちゃいけない、もしそんなことを考えてしまったら、もう、次の朝、目が覚めても起き上がる力も出ない、とバートは思っていました。
じきに足には水膨れができました。人目をさけるために、回り道ばかりしていたからです。そして次の夜、果樹園からいくつかの腐ったリンゴを盗み取り、その次の夜は、誰かのごみ箱からチキンの食べかすをみつけ、骨をしゃぶりました。
はるか遠くにジェロボームの暗い街並みが見えた頃、バートは、鍛冶屋の裏庭から紐を盗みました。痩せてしまって、ずり落ちてくるズボンを縛るベルトにするためです。
旅の間中、バートは自分に言い聞かせていました。いとこのハロルドにさえ会えれば、何も心配することはない、あとのことは、大人に任せればいいのだ、ハロルドがちゃんと解決してくれると。
バートは、あたりが暗くなるまで街の外に潜んでいました。そして水膨れで傷んだ足を引きずりながら、ワイン作りの街に入ると、ハロルドの居酒屋を目指しました。
窓には灯りがともっていませんでした。そばに来て理由がわかりました。扉も窓も全部、板が張られていたからです。居酒屋は店じまいされていて、ハロルド一家の姿はもうありませんでした。
「すみません、」バートは、すがる思いで通りかかった夫人に尋ねました、「ハロルドがどこに行ったかご存じですか?この居酒屋の持ち主だったハロルドです。」
「ハロルド?」夫人が言いました、「ああ、彼なら一週間ほど前に南へ向かったよ、ショーヴィルに親戚がいるとかで、王様のところで仕事させてもらうとか言ってたよ。」
言葉もなく、バートは夜の闇に消えていく夫人を見ていました。冷たい風が吹き抜けました。そして、そばのランタン柱に貼られた自分の指名手配のポスターが、風にはためいているのが目に入りました。
疲れ切って、もうどうしていいかわからなくなったバートは、その冷たい戸口の階段に腰をおろして、兵士が捕まえに来るのを待っている自分の姿を思い浮かべていました。
その時です。背中に剣の先があたるのを感じました。そして耳元で声がしたのです、
「みつけたぞ。」