本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。
本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。
(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。
「イッカボッグ」第十二章:王様の失われた剣
ほんの何秒かの間に、王様の一行は、濃くて真っ白な目隠しをされたようになってしまいました。
霧が濃すぎて、自分の手も見えないほどです。
ぬるぬるの地面で足を取られ、回りが見えないまま、みんな、どっちがどっちかわからなくなってしまいました。
ビーミッシュ少佐は落ち着いてみんなに命じました。
「気をつけろ!地面がぬかるんでいる。じっとしていろ!」
けれども、フレッド王は突然怖くなってしまって、言うことを聞かず、ビーミッシュ少佐の声のほうへ走り出そうとしました。
でも何歩か行くと、足元が、沼の中に沈んでいくのを感じたのです。
「助けてくれ!沈んでしまう!ビーミッシュ、どこにいるんだ?」
兵たちは、いっせいに王様をみつけようと、四方八方に動き出しました。
ぶつかったり、足を取られて転んだり、大騒ぎになって、王様の声が聞こえなくなってしまいました。
「ブーツが脱げた!なぜ誰も助けに来ないのだ?みんなどこにいるのだ?」
スピトルワース公とフラプーン公は、ビーミッシュ少佐のいいつけを守って、じっとしていました。
怖くて動けなかったのです。王様を助けようなどとは、これっぽっちも考えませんでした。
混乱は、ますますひどくなりました。
ビーミッシュ少佐は、みんなを静めようとしましたが、王様の声は、ますます遠い暗闇に消えていくようでした。
その時です、闇の中から、恐怖に満ちた叫び声がしたのです、
「ビーミッシュ助けてくれ、怪物が出た!」
「陛下、今行きます、叫び続けてください、今見つけますから!」
「まぬけな王様、いったいどうしたんだ?」フラプーン公が言いました。
ちょうどその時、スピトルワース公とフラプーン公のまわりから霧がさっと消えて、
ちょうどそこだけが、霧の壁に囲まれた部屋のようになりました。
王様とビーミッシュ少佐の声は、どんどんと遠のいていきます。
「動くなよ、もう少し霧が晴れたら、馬をみつけて、安全なところに・・」
スピトルワース公がそういったその時、
ヌルヌルとした真っ黒の何物かが、霧の壁の向こうから、ふたりをめがけて飛び込んできたのです。
フラプーン公は悲鳴を上げました。
スピトルワース公は、その生き物にとびかかろうとしましたが、その生き物が、泣きながらばったり倒れこんでしまったので、からぶりに終わってしまいました。
息を切らせて、もごもごと何かわけのわからないことを口にしている、ヌルヌルの怪物は、
「怖いもの知らずのフレッド王」だったのです。
「陛下、ご無事でよかった、ずいぶんと探しましたぞ」スピトルワース公が言いました。
「イ、イ、イッカ・・・」王様は泣きそうな声でいいました。
「イッカ、イッカ、イッカボッグだ!」
「見、見、見たのだ、巨大な怪物だ、もう少しでつかまるところだった!」
スピトルワース公は、フレッド王の頭をなでながら、慰めました、
「陛下、沼に沈んで怖い思いをされましたな、先ほども申しましたように、
この霧の中では、あの巨大な岩も怪物のように・・・」
「黙れ、スピトルワース、私はこの目で見たのだ!」王様は立ち上がるとそう叫びました。
「背が馬の2頭分もあって、大きなランプのように光った目だ。私は剣を抜いたが、手がすべって、落としてしまった、沼に沈んだブーツをぬいで、やっと這い出してきたのだ!」
その時、ローチ大尉が、霧を抜け出して、3人のいた晴れ間に現れました。
ローチ大尉というのは、ロデリックのお父さんで、ビーミッシュ少佐の一番の部下でした、大きなたくましい体に、真っ黒のヒゲをたくわえた男でした。
ローチ大尉が本当はどんな人だったかは、あとでわかることなのですが、今はとりあえず、
王様が、ローチ大尉を見て、大変喜んだとだけ言っておきましょう。何せローチ大尉は、衛兵隊の中でも一番大きな男だったからです。
「ローチ、お前は、イッカボッグを見たか?」フレッド王が、か細い声で聞きました。
「いいえ、陛下、見えたのは霧と泥だけです。陛下がご無事でよかった。皆さんはここにいてください、私は軍隊を集めてきます。」
ローチが行こうとしたところで、フレッド王が叫びました、
「いや、お前は、ここにいろ、怪物がこちらに来るかもしれん、お前はライフルをもっておるな?
私は剣とブーツを失くしてしまった、宝石が埋め込まれた、一番豪華で大切な剣だ!」
王様は、イッカボッグを見たことを誰も信じていないことに腹が立ってきました。
特に、スピトルワース公が王様をばかにした目つきをしたことに、プライドを大きく傷つけられたのです。
「スピトルワース、フラプーン、」
「剣とブーツを探してこい、あっちのほうにあるはずだ」霧の深いあたりを指して王様は言いました。
「陛下、霧が晴れるまで待ったほうがいいかと」
スピトルワース公が、びくびくして言いました。
フレッド王は怒鳴りました、
「剣を探してこい!おじいさんから授かった大切な剣だ、行って見つけてこい、ふたりでだ。私は、ここでローチと待っておる。手ぶらで戻ってくるんじゃないぞ!」