本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。
本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。
(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。
「イッカボッグ」第九章:羊飼いの話
「陛下!」
ヘリングボーンが、あわてて部屋に入ってきました。
「マーシュランドから羊飼いが嘆願に参っております。多少遅すぎたようで・・
もう昼食の時間なので、追い返しましょうか?」
スピトルワース公は、マーシュランドと聞いて顔をしかめましたが、
フレッド王は、少しためらった後、
羊飼いを部屋に通し、嘆願を聞くことにしたのです。
年老いて、ぼろぼろの服を着たその羊飼いは、マーシュランドからの道のりを、
荷馬車に乗ったり歩いたり、5日かけて宮殿にたどり着いたのでした。
羊飼いは、涙をうかべて話し始めました、
「わしの年老いた飼い犬のパッチが、死んじまったです。」
フレッド王は、それを聞いて、
「羊飼いよ、この金貨を与えるから、新しい犬を飼うといい。」
けれども、羊飼いが欲しかったのは、金貨や新しい犬ではありませんでした。
「パッチがどうやって死んだか、聞いてくだされ。」
羊飼いは話し始めようとしましたが、
フレッド王は、もうお昼ご飯の時間だったので、羊飼いを追い返そうとしました。
その時、羊飼いが言ったのです、
「パッチは、イッカボッグに食われちまったです。」
スピトルワース公とフラプーン公は、大笑いしてしまいました。
羊飼いは涙を流しながら続けました、
「ここに来るまでも、みんなに笑われたです、バカだ、頭がおかしいと言われましただ。
でもこの目であの化け物を見たです、パッチも食われる前に見たです、あの化け物を。」
フレッド王も笑いをこらえるのが大変でした。
でも、あの声が頭の中でささやいていたのです、
「身勝手で、見栄っ張りで、ひどい王様・・」
そして言いました、
「話してみよ、聞こうではないか。」
飼い犬パッチがイッカボッグに食われてしまった日のことを話し終えた羊飼いは言いました、
「わしのパッチを食っちまったイッカボッグをこらしめてくだされ。」
王様は、少しの間、羊飼いを見つめていましたが、ゆっくりと立ち上がると言いました、
「今から、北のてっぺんに向かうぞ!
お前の飼い犬を食ったイッカボッグの正体をあばき、必ずや罰してやろうではないか。」
慌てふためくスピトルワース公とフラプーン公に向かって王様は言いました、
「今すぐ、着替えて厩舎(きゅうしゃ)にまいろう、新しい獲物を狩りに行くぞ!」