イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第58章

イッカボグ

 

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第五十八章:ヘティー・ホプキンス

デイジーが計画のことをみんなに話した時、バートはやらないと言って断りました。

「怪物を守るだって?やるわけないだろ。」バートは激しい口調で言いました。「僕は怪物を殺すって誓ったんだよ、デイジー。イッカボッグは僕のお父さんを殺したんだ!」

「バート、そうじゃないの、」デイジーは言いました。「人間を殺したことなんてないのよ。とにかく話を聞いてあげてちょうだい!」

そしてその夜、洞窟の中で、バート、マーサ、そしてロデリックは、初めてイッカボッグのすぐそばに集まりました。それまでは、怖くて近寄れなかったのです。

イッカボッグは、四人の人間に、あの何年も前の夜、霧の中で人間と鉢合わせになった時のことを話しました。

「黄色い顔の毛がついた・・・」そう言うとイッカボッグは自分の上唇を指さしました。

「ヒゲのことね?」デイジーが言いました。

「そしてぴかぴか光った剣。」

「宝石のついた、」デイジーが言いました。「王様に間違いないわ。」

「その他に誰がいたの?」バートが尋ねました。

「他にはいなかった。」イッカボッグが答えました。「岩の後ろに隠れたから。人間は私の先祖をみんな殺した。だから怖かった。」

「だったら、僕のお父さんはどうして死んだの?」バートは迫りました。

「大きな銃で撃たれた人、あれはあなたのイッカーだったの?」イッカボッグが尋ねました。

「撃たれた?」バートが青ざめて繰り返しました。「どうしてそんなこと知ってるの?逃げたんでしょ?」

「岩の後ろから見てたから、」イッカボッグが言いました。「イッカボッグは霧の中でもよく見える。私は怖かった。人間が沼地で何をしているのか見ておきたかった。一人の人間がもう一人の人間に撃たれた。」

「フラプーン!」突然ロデリックが叫びました。今までバートに言いそびれていましたが、もうこれ以上黙ってはいられなかったのです。

「バート、俺、お父さんがお母さんに話してるのを聞いたんだ、お父さんの昇進はフラプーンとラッパ銃のおかげだって。俺、まだ子供だったから、何の意味かあの時は分からなかったんだ。今まで黙ってて本当にごめん、俺、俺、お前に何て言われるか、不安だったんだ。」

バートはしばらくの間、何も言いませんでした。あの恐ろしい夜のことを思い出していたのです。青の客間で、コルヌコピアの国旗に覆われて冷たくなったお父さんの手をそっと引っ張り出したこと、お母さんがその手にキスしたこと。スピトルワースが、お父さんの体を見てはいけないと言ったこと、そしてフラプーン公が口からパイのくずを飛ばしながら、ビーミッシュ少佐のことをずっと気に入っていたと話していたこと。

バートは、胸に手を当てました。肌にぴったりとお父さんのメダルを感じました。そしてデイジーを見ると、静かに言いました、「わかった。協力するよ。」

こうして、四人の人間とイッカボッグは、デイジーの計画を大急ぎで実行することになりました。雪が日に日に解け始めていたので、もうすぐ沼地に兵士たちが戻ってくることを恐れたのです。

まず最初に、四人が食べ終わったチーズ、パイ、焼き菓子が入っていた木製の大皿に、デイジーが、言葉を彫りました。次に、イッカボッグが二人の少年といっしょに、泥にはまった荷馬車を引っ張り出しました。マーサは、南へ向かう旅の途中、イッカボッグがちゃんと食事を採れるように、できる限りたくさんのキノコを集めました。

そして三日目の夜明け、みんなは出発しました。計画はとても慎重に進められました。残りの凍った食べ物と、カゴ一杯のキノコを乗せた荷馬車を、イッカボッグが引きました。イッカボッグの前には、バートとロデリックが看板を持って歩きました。バートの看板には、「イッカボッグは無害です」と書かれていました。ロデリックの看板には、「スピトルワースは嘘つきだ」と書かれていました。デイジーは、イッカボッグの肩に乗っていました。デイジーの看板には、「イッカボッグはキノコしか食べません」と書かれていました。マーサは、食べ物と山ほどのスノードロップの花束が積まれた荷馬車に乗りました。花束も、デイジーの計画のひとつでした。マーサの看板には、「イッカボッグ万歳!くたばれスピトルワース公!」と書かれていました。

しばらくの間、誰にも会わなかったのですが、昼過ぎ頃になって、やせ細った羊を引っ張って歩いてくる、みすぼらしい二人連れに出会いました。この疲れ切っておなかをすかせた二人連れは何と、双子をグランターばあさんの孤児院に預けた召使のヘティー・ホプキンスと夫だったのです。ふたりは、仕事をさがして国中を歩き回っていましたが、何もみつからないでいました。途中でおなかをすかせた羊を見つけて、引っ張ってきたのですが、薄くて細い毛は、売り物にもなりませんでした。

ホプキンスさんはイッカボッグを見ると、あまりに驚いて、膝をついてしまいました。ヘティーは、立ち尽くして、ぽかんと口を開けたままでした。奇妙な一団が近づいてきて、看板の文字が読めるようになると、二人は、頭がおかしくなったかと思いました。

そうなることを予想していたデイジーは、声をかけました、「夢じゃありません!これがイッカボッグです。優しくて穏やかで、人を殺したことなんてありません。それどころか、私たちの命を救ってくれたのです!」

イッカボッグは、デイジーを落とさないように気をつけながらかがみこむと、羊の頭を撫でました。羊は逃げもせず、怖がる様子もなく、メェェと鳴くと、また細い乾燥した草を食べ始めました。

イッカボッグと羊

「ご覧の通りです。」デイジーが言いました。「羊はイッカボッグが怖いものじゃないってわかるんです。一緒に行きましょう。荷馬車に乗ってください!」

ホプキンス夫妻はとても疲れておなかもすいていたので、まだイッカボッグのことが怖かったのですが、荷馬車に乗り込み、マーサの横に座りました。羊も一緒でした。こうしてイッカボッグと六人の人間、そして一匹の羊は、ジェロボームへと向かったのです。

 

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