本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。
本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。
(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。
「イッカボッグ」第十六章:バートのさようなら
スピトルワースは、宮殿の壁のあたりで、騒ぎが起こっているのに気づいて目をこらしました。
そして、地面に倒れている夫人の姿と、驚きと憐れみの叫び声を耳にしたとき、はっと気づいたのです。まだやり残していたことがあったと。
未亡人だ。
スピトルワースは、またそのずるがしこい頭を使って策を練るのでした。
一行が宮殿に到着すると、スピトルワースは、ローチを呼んでいいました、
「なぜご婦人に前もってビーミッシュ少佐のことを知らせなかったのだ?」
「思いもつきませんでした。」ローチは正直に答えました。
彼は、帰り道、受け取った王様の剣を、どうやって売りさばこうか、そんなことばかり考えていたのです。
「ヘマな奴だな、何もかも私がやらなきゃならんのか?」スピトルワースは、叱りつけました。
「ビーミッシュの体を綺麗にしてコルヌコピアの旗をかぶせ、「青の客間」に寝かせなさい。ドアには衛兵を置くのだ。それから、謁見室にビーミッシュ夫人を連れてきなさい。
そして、私が話をするまで、兵士たちはここに居残って、家族とも話をしないように命じよ。みんなで話しを合わせなければならぬのだ。
急げ、バカ者、急げ、ビーミッシュ夫人のせいで、何もかも台無しになるかもしれん。」
それからスピトルワースは、フラプーンに耳打ちした、「王を謁見室と青の客間には近づけるな、もうおやすみになるようにおすすめしろ!」
スピトルワースが、準備を整えて、謁見室で待っていると、ようやく、ビーミッシュ夫人とバートが、ローチ少佐に連れられて入ってきました。
「これはこれはビーミッシュ夫人、この度は、お気の毒なことになりました、深くお悔やみ申し上げるようにと、王から賜っております。私からもお悔やみを、ひどいことになってしまった、なんともひどいことに・・。」スピトルワースは、夫人の手を取って言いました。
青ざめた顔のビーミッシュ夫人は、泣きながら言いました、
「なぜ、誰も知らせてくださらなかったのです? 変わり果てた主人の姿を見るまで知らなかったなんて?」
スピトルワースは答えました、
「実は、知らせは送ったのです。そうであったな、ローチ?」
「はい、若い者を送りました、名前は・・」そこでローチは口ごもってしまいました。
想像力の乏しい男なのです。
「ノビーだ、」とスピトルワースが思いついた名前を言いました、
「若い、ノビー・・・ボタンという者だ。自分が知らせると言って出かけたのだが、いったいどうなってしまったんだ、捜索部隊を出して探さねばならんぞ。」
「かしこまりました。」そう言ってローチは部屋を出て行きました。
「主人は・・・主人はどのように亡くなったのですか?」ビーミッシュ夫人は尋ねました。
そこから、スピトルワースは、慎重に言葉を選びながら、ことのあらましを伝えました。
夫人に話すことが、正式な報告となるのですから、それ以上、話を変えることはできないのです。
話を聞き終えた夫人は、泣きながら言いました、「主人に会わせてくださいますか?」
「もちろんです。」そう言ってスピトルワースは、ビーミッシュ夫人とバートを、青の客間に連れていきました。
部屋に入る前に、スピトルワースは、言いました、
「ご遺体には旗をかぶせてあります。残念ながら姿を見ることはできません、傷跡がひどいので、ご覧にならないほうが・・。」
夫人はふらつく体をバートに支えられて、部屋に入りました。
「せめて、最後に一度お別れのキスをさせてください。」ビーミッシュ夫人は、涙声で言いました。
「それは無理です、顔は、半分無くなってしまっています。」スピトルワースが言いました。
「手にすればいいよ、母さん、」バートが初めて口を開きました。
「手ならきっと大丈夫だと思うよ。」
スピトルワースが止める間もなく、バートは、旗の下にあったお父さんの手を取りました。手は無傷でした。
ビーミッシュ夫人は、膝まづくと、何度も何度もその手にキスをしました。涙でぬれたその手は、まるでポーセリンのように光っていました。
それからバートは、お母さんの手を取って立たせてあげると、ふたりは、何も言わずに青の客間をあとにしました。