本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。
本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。
(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。
「イッカボッグ」第十四章:スピトルワース公の計画
霧がすっかり晴れたころ、一行の姿は、ほんの一時間ほど前に沼地に着いた時とは、まったく違っていました。
ビーミッシュ少佐の突然の死にも驚きましたが、そのいきさつについて、何人かの衛兵たちは、納得がいきませんでした。
ふたりの公爵と王様、そしていつの間にか昇進していたローチ少佐が、揃って伝説の怪物をその目で見たと言うのです。
ぴっちりとコートに包まれているビーミッシュの体に、本当にイッカボッグの牙のあとがついているのだろうか?
けれども王様の言うことを嘘だなどということはできません。みんな、黙ってしまうのでした。
ビーミッシュ少佐と仲のよかったグッドフェロー大尉は、何も言いませんでした。でも、
ローチが偉そうに、命令してきた時には、大尉の目は、怒りと疑惑に満ちていたのでした。
王様はずっとおびえていました。イッカボッグが、匂いをつたって追いかけてくるのではないかと心配していたのです。
スピトルワース公は、大丈夫だと王様をなだめました。薄暗かったので、スピトルワース公が、薄ら笑いを浮かべていたのを、王様は気づきませんでした。
沼地で一晩すごした後、一行は帰路につきました。
最初に着いたのは、ジェロボームの街でした。
スピトルワース公は、一行が到着する前にジェロボームの市長に連絡を送っていました。
沼地でひどい事故があったので、王様は、派手なお迎えは必要ないと仰っていると。
一行が到着したとき、街は静かで、人々は、こっそりと家の中から、のぞいていました。
泥んこで哀れな姿となった王様にも驚きましたが、何よりも、鉄銀の馬の背に括りつけられた、ビーミッシュ少佐のなきがらに、みんなは、ショックを受けたのでした。
宿に着くと、スピトルワース公は、主人を呼びつけて言いました、
「一晩、死体を冷たくて安全な場所に保管したい、ワイン貯蔵庫がいいな、鍵は私が預かっておく。」
「何があったのですか?」
ローチがビーミッシュの死体を運び込んでいる間に、宿の主人は尋ねました。
スピトルワース公は、こっそりと主人に言いました、
「お前だけにはおしえてやろう、絶対に街のものたちには内緒だぞ。
イッカボッグは、ほんとにいたんだ、隊のひとりがむごい殺され方をした。
この話が広まれば、街は大騒動になる、王様は、宮殿に戻られたらすぐに相談役と、今後の国の安全にてついて話し合うおつもりだ。」
「イッカボッグが?それは本当ですか?」宿の主人は驚き恐れて言いました。
「そうだ、だから絶対に誰にもいってはならんぞ。」
それは、スピトルワースがしかけた計画通りになりました。イッカボッグの噂は、あっという間に街中に広がり、次の朝に王様の一行がクルズブルグに向けて出発するころには、街はすっかりパニックとなっていたのです。
一行がクルズブルグに到着したころには、噂は、もう街中に広まっていました。家々からのぞいている人々の顔は、恐怖に満ちていました。
スピトルワースは、またワイン貯蔵庫にビーミッシュ少佐の死体を保管し、宿の主人には、イッカボッグが家来のひとりを殺してしまったと打ち明けたのです。
王様は、まだ恐怖に震えていました。
「イッカボッグの鳴き声が聞こえる、街のものたちも、イッカボッグのことを話しておった、なぜみんなが沼で起こったことを知っているのだ?」
スピトルワースは説明しました。
「我々が沼地を出発したあと、どうやらイッカボッグは、益々凶暴になっているそうです、攻撃されたのですから、無理もないことですが。」
「誰に攻撃されたというのだ?」王様は聞きました。
「あなたですよ、陛下。ローチから聞きましたよ、陛下の剣が、怪物の首に刺さっていたと。そうではないのですか?」
王様は、口を閉ざしました。最初に話したこととは違うとわかっていましたが、自分が勇敢にイッカボッグに立ち向かったという話のほうが、剣を落として逃げたという話よりも聞こえがいいと思いなおしたからです。
「しかし、怪物がもっと凶暴になったら、国はどうなるのだ?
怖がる王様を、スピトルワースは、なだめました、
「私が命をかけて、王と、王国の安全を、イッカボッグからお守りします。」
「ありがとう、スピトルワース、お前は真の友だ。」
深く感動した王様は、スピトルワースの手をしっかりと握りしめるのでした。