イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第61章

イッカボグ

 

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第六十一章:フラプーンがまたぶっ放す

ふたりの公爵は、大急ぎで宮殿の中庭へ出ました。そこにはすでに、スピトルワースが命じたように、イッカボッグ特別防御軍が武器を携え馬に乗って待機していました。プロッド少佐(何年も前にデイジーをさらった男です、今ではローチ少佐のあとを引き継いで少佐になりました)はおろおろしていました。

「公爵、」少佐は急いで馬に乗ろうとするスピトルワースに言いました、「宮殿で何か騒ぎが起こっているようです、叫び声が聞こえたのですが・・」

「気にするな!」スピトルワースが怒鳴りました。

その時、ガラスが割れる音がして、兵士たちが見上げました。

「王の寝室に誰かいます!」プロッドが声を上げました。「助けに行かないのですか?」

「王のことは放っておけ!」スピトルワースが叫びました。

その時、グッドフェロー大尉が王さまの寝室の窓から顔を出しました、「逃げられないぞ、スピトルワース!」

「さあどうかな」公爵はそう言うと、痩せた黄色い馬を蹴って無理やり走らせ、宮殿の門の外へ消え去りました。プロッド少佐は、スピトルワースに逆らうのが怖かったので、イッカボッグ特別防御隊と共に、あとに続きました。フラプーンも、やっとのことで馬によじ登り、たてがみにしがみついたまま、あぶみに足をかけようと必死になりながら、ついて行きました。

脱獄した囚人たちに宮殿を乗っ取られ、偽のイッカボッグが民衆を引き連れて国中を行進している、そんなことになったらもうおしまいだと諦める人もいるかもしれませんが、スピトルワースは違いました。まだ武装した優秀な軍隊がついていますし、郊外の屋敷には山ほどの金貨を隠してあります、ずる賢いスピトルワースは、もう次の作戦を考えていたのでした。

まず、その偽イッカボッグを使って騒ぎを起こしている者たちを撃ち殺し、人々を怖がらせ、おとなしくさせる。それからプロッド少佐と兵士たちを宮殿に送り返して脱獄囚全員を即死刑にする。その頃には王様はすでに囚人たちに殺されているかもしれないが、本当のところ、フレッドがいないほうが、国を治めやすい。

馬を走らせながらスピトルワースは考えていました。そもそも王様をだますために、どれほど苦労させられてきたことか、それがなければ、事はもっと簡単だったのだ。あのいまいましい菓子職人に、ナイフやフライパンを与えてしまうようなドジを踏むこともなかったかもしれない、そう思っていました。

そしてもっとたくさんスパイを送りだしておけばよかったと悔やんでもいました。そうすれば、誰かが偽イッカボッグを作ろうとしていたこともわかったかもしれないからです。偽物、とはいっても、聞くところでは、その日の朝、厩舎で見た物よりは、ずいぶんと出来がいい偽物に違いないのでした。

そうして、イッカボッグ特別防御軍は、人影のないショーヴィルの石畳を走り抜け、クルズブルグに続く道に出ました。スピトルワースは激怒しました。ショーヴィルの通りに誰もいなかった理由がわかったからです。みんな、本物のイッカボッグが民衆を連れて都に向かっているという噂を聞いて、ひと目見ようと、街の外に集まっていたのです。

「道をあけろ!どけどけどけ~~!」スピトルワースがわめき散らしました。集まった人々の顔が、恐怖よりも興奮した様子なのを見て余計に腹が立ちました。そして、馬の腹を血が滲むほど蹴って走らせました。後に続いたフラプーン公は、朝ごはんがまだ消化されておらず、顔色が真っ青になっていました。

そしてついに、はるか向こうから、とてつもない数の民衆が近づいてくるのが見えました。スピトルワースが、思いっきり手綱を引くと、可愛そうな馬は、地面を滑りながら急停止しました。

行進

笑ったり歌ったりしている何千人ものコルヌコピアの民衆に囲まれて、その生き物はいました。馬二頭ほどの背丈で、ランプのように光る目、沼地の雑草のような長い茶緑色の毛におおわれた巨大な体。その肩には若い女の子が乗っていました。その前には、ふたりの若い男の子が木製の看板を掲げて歩いていました。そして時折、その怪物はかがみこんで、そうです、花束を配っているように見えたのです。

「まやかしだ、」スピトルワースがつぶやきました、あまりの衝撃と恐怖で、自分が何を言ってるのかわかっていませんでした。「まやかしに違いない!」声を上げてそう言うと、やせこけた首を伸ばしてその正体をつきとめようとしました。「沼地の雑草でできた着ぐるみの中に、何人か人間が肩の上に立ったりしているんだろう、全員、銃を構えろ!」

兵士たちは躊躇しました。これまでずっと、イッカボッグから国を守ってきたとはいえ、一度も見たことはありませんでしたし、見るとも思っていませんでした。でも今目の前にいるものが、まやかしとは思えなかったのです。それどころか、その生き物は、本物に見えました。それは、犬の頭をなでたり、子供達に花を渡したり、肩には女の子を乗せているのです。狂暴な生き物には全く見えませんでした。そして兵士たちは、イッカボッグが何千人もの民衆を連れていることも気になりました。みんなイッカボッグの味方のようです、もし自分たちが攻撃したら、あの人々が何をしてくるかわかりません。

その時、ひとりの若い兵士が取り乱して言いました、「あれはまやかしじゃない、俺はごめんだ。」兵士は、誰かが止める間もなく、走り去ってしまいました。

ようやく「あぶみ」に足をかけたフラプーンが追い付いてきて、スピトルワースの横に姿を現しました。「どうするんだ?」イッカボッグと楽し気に歌う民衆がどんどん近づいてくるのを見てフラプーンが尋ねました。

「考えてるんだ、」スピトルワースがうなりました、「今考えている!」

ですが、猛スピードで回っていたスピトルワースの脳みその歯車は、ついに動かなくなってしまいました。何より、人々が楽しそうな顔をしていることが、いちばん腹立たしかったのです。笑顔というのは、ショーヴィルの焼き菓子や、シルクのシーツと同じように、贅沢品だと思っていました。みすぼらしい人々が楽しそうにしている姿は、その人たちが銃を持つよりも、もっと恐ろしいと感じたのです。

「私が撃ってやる、」フラプーンが銃を持ち上げ、イッカボッグに狙いを定めて言いました。

「待て、」スピトルワースが止めました、「見てみろ、あっちの方がずっと数が多い。」

ちょうどその時、イッカボッグが、耳をつんざくような、身の毛がよだつような叫び声をあげたのです。そばにいた民衆が、後ずさりしました、みんなとたんに怯えた顔になりました。花束を落としてしまう人もたくさんいました。あわてて逃げ出す人もいました。

そしてもう一度、ひどいうめき声を上げると、イッカボッグは膝をつきました、デイジーはもう少しで落ちそうになりましたが、しっかりとつかまっていました。

すると、イッカボッグの巨大なおなかのふくらみが、大きく裂けるのが見えました。

「お前の言う通りだ、スピトルワース!」フラプーンがラッパ銃を持ち直して叫びました。「中に人間が隠れている!」

民衆が叫び声を上げながら方々に散っていく中、フラプーン公は、イッカボッグのおなかに狙いを定め、銃をぶっ放しました。

 

 

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