本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。
本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。
(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。
「イッカボッグ」第五十九章:ジェロボームに戻る
ジェロボームの濃い灰色の街並みが見える頃には、もう陽が暮れようとしていました。イッカボッグの一団は、街を見渡す丘の上で、少し休憩しました。マーサが、イッカボッグに、大きなスノードロップの花束を渡しました。そして看板をしっかりと持ち直すと、四人の仲間は、握手を交わしました。お互いに、そしてイッカボッグに、必ず守ると誓ったからです。たとえ人々に銃を向けられ脅されても、決して逃げないと。
そして、イッカボッグは、ワイン造りの街へ向かって、丘を下っていきました。街の門にいた衛兵が、その姿を見て、銃をかまえ、撃とうとしました。けれどもデイジーがイッカボッグの肩の上に立ち上がり、大きく手を振りました。バートとロデリックは看板を高く掲げました。衛兵のライフルが震えていました。そしてだんだんと近づいてくる怪物を、恐れおののいて見つめていました。
「イッカボッグは誰のことも殺してなんかいません!」デイジーが叫びました。
「ずっと嘘を聞かされていたんです!」バートが叫びました。
衛兵は、どうしていいかわかりませんでした。四人の若者を撃つわけにはいかなかったからです。イッカボッグがどんどん近づいてきました。大きくて奇妙な姿に、衛兵は、震えあがりました。
けれどもその大きな目は、優しいまなざしを向けていました。そして手にはスノードロップの花束を持っていたのです。衛兵のところまで来ると、イッカボッグは立ち止まり、かがみこむと、ふたりにスノードロップの花束を差し出しました。
衛兵たちは花束を受け取りました、怖くて断れなかったからです。それからイッカボッグは羊にしたのと同じように、二人の衛兵の頭を優しくなでると、ジェロボームの街中へと歩いていきました。
街中に悲鳴が上がり、イッカボッグを見て人々は逃げたり、武器を取りに走ったりしましたが、バートとロデリックは、看板を高く掲げ、勇敢に、イッカボッグの前を歩きました。イッカボッグは出会う人々にスノードロップの花束を差し出しました、そしてついに、ひとりの若い女性が、勇気を出して、花束を受け取ったのです。イッカボッグはとっても嬉しかったので、響き渡る声で女性にお礼を言いました。その声に、たくさんの人が悲鳴を上げて逃げて行きましたが、他の人たちは、少しずつイッカボッグに近づいてきて、いつのまにか、怪物の回りは、ちょっとした人だかりになりました。人々が、イッカボッグの手からスノードロップの花束を受け取り、笑っていたのです。イッカボッグも笑顔を浮かべていました。人々から声援を受けたり、感謝されたりするなんて、思ってもみませんでした。
「言ったでしょ?みんな、あなたのことを知ったら、きっと大好きになるって!」デイジーはそっとイッカボッグの耳もとでささやきました。
「一緒に行きましょう!」バートが人だかりに向かって叫びました。「僕たちは王様に会うために、南へ向かっています!」
スピトルワースの下で、さんざん苦しめられてきたジェロボームの人々は、たいまつや、三つ又や銃を取りに、大急ぎで家に帰りました。イッカボッグを襲うためではなく、守るために。嘘をつかれていたことに激怒した人々は、怪物の回りに集まり、夜の闇を行進し始めました。
デイジーは、まず最初に孤児院に立ち寄りました。扉はもちろん鍵と錠で固く閉ざされていましたが、イッカボッグのひと蹴りで、すんなり開いてしまいました。イッカボッグがデイジーをそっと降ろすと、デイジーは急いで中に入り、子供達を連れ出しました。小さい子供たちは、荷馬車によじ登り、ホプキンスの双子も、両親の腕の中に飛び込みました。大きな子供達は一団に混ざって歩き出しました。
グランターばあさんは、怒り狂って子供達を呼び戻そうと叫びましたが、窓の外から、イッカボッグの大きな毛むくじゃらの顔がばあさんを睨んでいるのを見たとたん、気を失って倒れこんでしまいました。
イッカボッグは大喜びで、ジェロボームの大通りを進み、人々がどんどん集まって、一団は大きくなっていきました。でも、その時、街角からいじめっ子ジョンがその様子を見ていたことに誰も気づきませんでした。いじめっ子ジョンは、近所の居酒屋でお酒を飲んでいたのですが、あの夜、ふたりの少年に鍵を盗まれ、ロデリック・ローチにこっぴどく殴られたことを忘れてはいませんでした。
いじめっ子ジョンは、すぐにわかりました。この問題児たちが、沼地のでかい怪物を連れて都に踏み込めば、イッカボッグは危険だという作り話を使って大儲けしている誰かが、困ることになると。そこで、孤児院には帰らず、居酒屋のお客から馬を盗むと、のんびりと行進するイッカボッグをあとに、猛スピードで南へと突っ走りました。ショーヴィルに危機が迫っていることをスピトルワース公に伝えるためです。