イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第56章

イッカボグ

 

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第五十六章:囚人たちの策略

部屋を出ると、スピトルワースはフラプーンを叱り飛ばしました。

「王に渡す前に、手紙をチェックしろと言っておいたではないか!いったいどこでイッカボッグの死体を見つけるというのだ?」

「縫ってつくればいいのだ、」肩をすくめて、フラプーンが提案しました。

「縫ってつくるだと?縫ってつくるだと?」

「君に何かいい考えがあるのか?」そう言うとフラプーンは、王の食卓から持ち出した「貴族の喜び」にかじりつきました。

「私に何かいい考えがあるかだと?」スピトルワースは頭にきて繰り返しました、「私だけの問題だとでも言うのか?」

「イッカボッグの作り話を考えたのは君だぞ、」もごもごと口を動かしながらフラプーンが言いました。スピトルワースに、怒鳴られたり、命令されたりすることにうんざりしていたのです。

「ビーミッシュを殺したのはお前だ!スピトルワースがすごみました。「私が怪物のせいにしなかったら、君は今頃どうなっていたと思っているんだ?」

フラプーンの答えを待つこともせず、スピトルワースは、牢獄に降りていきました。少なくとも、囚人たちが大声で国家を歌うのをやめさせることはできます、そうすれば、王様は、イッカボッグとの戦いが、また不利になったのではないかと思うかもしれません。

「静まれー静かにしろ!」入るなり、スピトルワースが怒鳴りました、牢獄中、賑やかな音が溢れていたからです。歌声や笑い声が響き、召使のキャンカビーは、牢屋から牢屋へと忙しく走り回って、調理道具を渡したり受け取ったりしていました。そしてビーミッシュ夫人の焼き立ての「乙女の夢」のいい香りが、温かい空気いっぱいに広がりました。

囚人たちはみんな、前にスピトルワースが見た時よりずいぶん元気そうでした。スピトルワースは、気に入りませんでした。全く気に入りませんでした。特に、グッドフェロー大尉が以前にも増して見栄え良く、強そうに見えるのが気に入りませんでした。自分の敵は、弱くて落ちぶれていないと気がすまないのです。それなのに、ダブテイルさんまで、白くて長いヒゲをきちんと手入れしているように見えました。

「鍋やナイフや何でも手渡しているものは、ちゃんと数えているんだろうな、」スピトルワースは、息を切らせているキャンカビーに尋ねました。

「もちろん・・もちろんでございます、ご主人様、」召使は答えました。

本当のところ、キャンカビーは、ビーミッシュ夫人の指示についていくのが精いっぱいで、どの囚人が何を持っているか、さっぱりわからなくなっていました。スプーン、泡だて器、取り鍋、フライパン、ベーキングトレイ・・、ビーミッシュ夫人の作業に必要なものを、鉄格子の間から、やりとりしなければならなかったのです。何度か間違って、ダブテイルさんのノミを他の囚人に渡してしまったこともありました。毎晩、作業が終わると、道具をすべて回収しているつもりでしたが、わかったものではありません。

そして牢獄の守衛がワインばかり飲んでいるので、夜、灯りが消えたあと、囚人たちが、ひそひそと何やら相談していたとしても、何も聞いていないのではないかと、時々心配もしていました。

けれども、スピトルワースの機嫌が悪そうだったので、そんなことを言いだすこともできず、口をつぐんでしまったのです。

「今後、歌うことを禁じる!」スピトルワースの怒鳴り声が牢獄中に響き渡りました。「王の頭痛がひどいのだ!」

実は頭が痛かったのは、スピトルワースのほうでした。そして、囚人たちに背を向けるなり、もう他のことを考えていました。どうすれば、それらしいイッカボッグの剥製が作れるだろうか、もしかしたらフラプーンに何かいい案があるかもしれん。牛の骨を組み立てて、裁縫師が、その上に龍のような形を縫い合わせ、中におがくずを詰めればいいか?

嘘の上に嘘の上に嘘。一度嘘をついてしまうと、やめるわけにはいかなくなるのです。まるで穴だらけの船の船長のようなものです。沈まないように、いつも穴をふさぐことばかり考えているのです。

骸骨とおがくずのことで頭がいっぱいになっていたスピトルワースは、今までで一番大きな問題に背を向けていることに全く気が付きませんでした。

それは、ナイフやノミを、毛布の下や、ゆるくなった壁のレンガの裏に隠し持った、牢獄一杯の囚人たちの策略でした。

 

 

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