イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第52章

イッカボグ

 

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第五十二章:キノコ

バロンスタウンのパイの味は格別でした。デイジーとマーサはそれまで何年も、グランターばあさんのところでキャベツスープしか食べていませんでした。マーサは、ひと口食べると泣き出して言いました、「食べ物がこんなにおいしいものだなんて知らなかった。」

食べている間はみんなイッカボッグのことを忘れていました。パイを食べ終わると、力も出てきました。四人は立ち上がると、焚火のあかりで映し出される、イッカボッグの洞窟の中を探検しました。

「見て、」デイジーが壁に描かれた絵を指して言いました。

百ほどの毛むくじゃらのイッカボッグが、槍を持った人間たちに追いかけられている絵でした。

イッカボッグと人間の戦い

「こっちのを見てみろよ!」ロデリックが洞窟の入り口近くにある絵を指して言いました。

焚火に照らされて見えたのは、羽のついたカブトをかぶり、手に剣を持った人間と、イッカボッグが、一対一で向き合っている絵でした。

「王様じゃないかしら、」デイジーが人間を指してささやきました、「あの夜、王様は本当にイッカボッグを見たのかしら?」

もちろん誰も答えられませんでした。でも実は、私は知っているんです。あの時、本当は何が起こったのか、全部ここでお話しましょう。今まで黙っていて、ごめんなさいね。

ビーミッシュ少佐が撃たれたあの夜、濃い霧のかかった沼地で、フレッドは、本当にイッカボッグを見ていたのです。それともうひとつ、自分の犬がイッカボッグに食べられてしまったと言っていた羊飼いは、翌朝、扉を引っ掻いて泣く声を聞いて、忠犬パッチが帰ってきたことに気づきました。スピトルワースが、枝に絡まっていたパッチを逃がしてやったからです。

パッチがイッカボッグに食べられたのではなかったことを、羊飼いは王様に知らせませんでした。でも責めないであげてください、羊飼いはショーヴィルまでの長い道のりを歩いて行き来して、疲れ切っていたのです。どちらにしても、王様にとってはどうでもいいことだったでしょう。誰が何と言おうと、王様はあの霧の中で怪物を見たのですから。

「どうして、」マーサが言いました、「イッカボッグは王様を食べなかったのかな?」

「もしかしたら、みんなが言ってるように、王様は本当にイッカボッグを追っ払ったんじゃないか?」ロデリックは疑いながらもそう言いました。

「おかしいと思わない?」イッカボッグの洞窟を見回してデイジーが言いました、「もしイッカボッグが人間を食べるんだったら、ここに骨が残っているはずでしょ。」

「きっと骨まで食べちゃうんだよ。」バートが震える声で言いました。

デイジーは気づきました。ビーミッシュ少佐が事故で亡くなったと思っていたのは間違いで、やっぱりイッカボッグが少佐を殺したんだと。デイジーはバートの手を取りました、自分のお父さんを殺したやつの隠れ家に今自分がいる、それがどれだけ恐ろしいことか、デイジーにはわかったからです。その時、外で大きな足音がしました、怪物が帰ってきたのです。四人は大慌てで柔らかい羊の毛の寝床に戻り、腰を下ろすと、何事もなかったかのようにじっとしていました。

大きな音を立てて、イッカボッグが岩を転がすと、冬の冷たい空気が入ってきました。外はまだ激しく雪が降っていました。イッカボッグの髪にもたくさんの雪が積もっていました。ひとつのカゴには、山ほどのキノコと薪が入っていて、もうひとつのカゴには、凍ったショーヴィルの焼き菓子が入っていました。

四人が見守る中、イッカボッグは薪をくべて火を大きくすると、すぐ横に、たいらな石を置き、焼き菓子を並べました、凍った焼き菓子が少しずつ解けてきました。そしてイッカボッグは、デイジー、バート、マーサ、そしてロデリックの目の前で、キノコを食べ始めました。面白い食べ方です。イッカボッグの手には、一本の長いくぎのような爪があるのですが、その両手の爪に、いくつかのキノコを串刺しのようにすると、ひとつずつ、上手に口に運ぶのです。そしてとってもおいしそうに噛み砕いて食べました。

少しすると、イッカボッグは、四人の人間に見られているのに気づいたようです。

「ガオゥ」またそう言うと、みんなの目も気にせず、キノコを全部食べ終えました。そのあと、イッカボッグは熱くなった石の上で解凍されたショーヴィルの焼き菓子を丁寧に取り上げ、その大きな毛むくじゃらの手にのせて、人間たちに差し出しました。

「わたしたちを太らせようとしているんだ!」マーサが怯えた声でささやきました、それでも差し出された焼き菓子をつかむと、次の瞬間には、そのあまりの美味しさに、目を閉じて我を忘れていたのでした。

イッカボッグと人間たちが食事を終えると、イッカボッグはふたつのカゴをきちんとすみっこに片づけて、火をかきたてると、洞窟の入口のほうに向かいました。外はまだ雪が降っていて、陽が暮れかかっていました。

なんとも奇妙な音でイッカボッグは息を吸い込むと、(その音は、バグパイプという楽器を演奏する前に袋に空気を吹き込む時の音に似ていました)人間にはわからない言葉で歌い始めました。歌声は、暮れていく沼地の隅々にまで響きわたりました。その歌を聴いていた四人の若者は、しだいに眠たくなってきて、ひとりずつ、羊の毛の巣の中に横たわり、眠りに落ちて行きました。

 

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