イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第51章

イッカボグ

 

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第五十一章:洞穴の中

何時間か過ぎて、デイジーは目を覚ましました、でもすぐには目をあけませんでした。こんなに心地いい気分になったのは子供の頃以来です。お母さんが縫ってくれたパッチワークのキルトをかぶって眠っていた頃、冬の朝はいつも暖炉の火がはじける音で目を覚ましたのです。そして今、火がはじける音が聞こえて、オーブンで焼かれる鹿肉のパイの香りが漂ってきたのです。デイジーは、お父さんとお母さんといっしょに家にいる夢を見ているんだと思いました。

でも、火の音とパイの香りがあまりにも本物だったので、夢じゃなくて、天国にいるのかもしれないと考えなおしました。私は沼地の片隅で凍え死んじゃったのかしら? じっとしたまま、デイジーが目を開けると、そこには、揺れる炎と、粗削りの壁が見えました、何やら大きな洞窟の中にいるようです。そして、自分と三人の仲間が、羊の毛のようなものを敷いた大きな巣の中に横たわっていることに気づきました。

火の横には、沼地に生えている茶緑っぽい長い雑草に覆われた巨大な岩がありました。デイジーは、その岩をじっと見ていました、そして暗がりに目が馴染んできてようやく気付いたのです、背が馬の2頭分ほどあるその岩が、デイジーをじっと見ていることに。

昔話では、イッカボッグはドラゴンのようだとか、ヘビのようだとか、人食いお化けのようだとか言われていましたが、これは本物だと、すぐにわかりました。あわてて、また目を閉じると、デイジーは羊の毛の間から手を伸ばし、すぐ横にいた誰かの背中をつつきました。

「何だよ?」バートがささやきました。

「見た?」デイジーがささやきました、目は閉じたままです。

「ああ、」バートが息を吐きました、「見ちゃだめだよ。」

「見てないわ、」デイジーが答えました。

「だからイッカボッグはいるって言ったでしょ、」マーサの怯えた声がしました。

「パイを温めてるみたいだぜ、」ロデリックがささやきました

四人とも目を閉じたまま、じっとしていました。でも、鹿肉のパイの美味しそうな匂いがたまらなくなってきました。いっそのこと、飛び出していってパイをつかみ取って食らいつきたい、イッカボッグに殺される前に、それでもいいや、と思ったほどでした。

その時、怪物が動きました。長くて粗い毛が揺れる音がして、重たい足が、どすんと大きな音をたてました。それからガチャンという音、怪物が何か重いものを置いたような音でした。そして、低い声がとどろきました、

「食え、」

四人とも目をあけました。

イッカボッグが人間の言葉を話したことに、みんなが驚いたと思うでしょう? でも、そこに本物のイッカボッグがいて、それは火のおこしかたを知っていて、鹿肉のパイを調理していたのです。それだけでみんな十分に驚いていたので、人間の言葉を話したことまで、考える余裕がありませんでした。

イッカボッグは粗削りの木の皿にのせたパイを四人のそばの床に置きました。それを見てみんなは、イッカボッグが、置き去りにされた荷馬車の中で凍っていたものを取ってきたんだと気づきました。

四人は、慎重にゆっくりと体を起こし、座ると、大きくて、悲し気なイッカボッグの目を見上げました。イッカボッグは、頭のてっぺんからつま先まで粗くて長くて緑っぽい毛でおおわれていました。そしてそのもつれた毛の間から、四人のことをじっと見ていたのです。人間と同じような体格で、信じられないくらい大きなおなかをしていて、毛むくじゃらの大きな手には、それぞれ一本の尖った爪がついていました。

「僕らをどうするつもり?」勇気を振り絞ってバートが聞きました。

深くて響き渡るような声でイッカボッグが答えました、「食っちまうよ、今じゃないけど。」

イッカボッグはそう言って振り返ると、木の皮を編んで作ったかごを二つ持って、洞窟の入り口まで歩いていきました。それから突然思い出したように、四人のほうを振りむくと、

「ガオゥ」と言いました。

吠えたわけではありません、ただそう言っただけです。四人の若者はイッカボッグをじっと見ていました。イッカボッグはまばたきをすると、振り返り、かごを手に持って、洞窟の外に出て行きました。

それから、大きな岩が転がってきて、洞窟の入り口をふさぎました、獲物を閉じ込めておくためです。

四人は、ばりばりと雪を踏みつぶして歩くイッカボッグの足音が、だんだんと遠ざかっていくのを聞いていました。

 

 

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