イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第50章

イッカボグ

 

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第五十章:冬の旅

コルヌコピアの歴史のどこを探しても、四人の若者がたどったマーシュランドへの旅ほど過酷なものはありませんでした。

その年は、百年に一度の厳しい冬でした。ジェロボームの暗い街並みが遠く後ろに見えなくなってしまう頃には、激しい雪で、目の前が真っ白になっていました。すり切れたボロ服と、破れた毛布では、凍えるような寒さには耐えられません、それはまるで、小さなぎざぎざの歯をしたオオカミの群れが、体中に噛みついてくるようでした。

マーサがいなかったら、とっくに道に迷っていたことでしょう。でもマーサは、ジェロボームの北にあるこの地域のことをよく知っていました。雪が積もって何もわからなくなっていても、マーサは、昔よく登った大木や、変わった形をした岩、そして近所の壊れかかった羊小屋のことを覚えていました。

それでも、どんどん北へ進むにつれ、みんなは、口には出しませんでしたが、このまま死んでしまうのではないかと考えていました。体が悲鳴を上げていました。もう耐え切れない、どこか、ほったらかしの物置小屋でもみつけて、凍った藁に横たわり、そのまま諦めてしまおうと。

三日目の夜、マーサは、あと少しだとわかりました、覚えのある、沼からにじみ出た水の匂いがしたからです。みんなは、少し元気を取り戻しました。どこかに駐屯地のたいまつや焚火が見えないかと、目をこらしました。風の音と共に、兵士の話し声や馬の装具が触れ合う音が聞こえたような気がしました。時々、遠くに光が見えたり、物音がしたりしましたが、それはいつも、凍った水たまりに反射する月の光だったり、吹雪できしむ木の枝だったりしました。

そしてついに四人は、岩と草むらに覆われた、果てしなく広がる沼地の入り口にたどり着きました、そしてそこにはたったひとりの兵士もいなかったのです。

冬の嵐のせいで、軍は撤退していたのです。軍の指揮官は、イッカボッグのことを信じてはいませんでした。そして、スピトルワース公のご機嫌を取るために、兵士を凍え死にさせるわけにはいかないと判断して、軍隊に、撤退するようにと命じたのです。雪はまだ激しく降り続いていました。もし、そこまで雪が積もっていなければ、四人は、五日前に南に向かった兵士たちの足跡を、見つけることができていたかもしれません。

「見ろよ、」ロデリックが震えながら指さしました、「ここにいたんだよ・・」

雪道につっかえて動かなくなった荷馬車でした。ひどい嵐から抜け出そうと急いでいたので、ほったらかしにされたのでしょう。四人が中をのぞくと、そこには、バート、デイジー、そしてロデリックが夢に見た、そしてマーサが一度も見たことのない、たくさんの食べ物が積まれていました。クルズブルグのチーズの山、ショーヴィルの焼き菓子、バロンスタウンのソーセージや鹿肉のパイ、全部、駐屯地にいる指揮官や兵士たちを喜ばせるために、送られてきたものでした。マーシュランドには、ろくに食べ物がなかったからです。

バートはかじかんだ指で、パイをつかもうとしました。でも分厚い氷に包まれてしまっていたので、指は、滑り落ちてしまいました。

バートは絶望的な表情で、デイジー、マーサ、そしてロデリックを見ました。みんな、唇が真っ青でした。

誰も何も言いませんでした。イッカボッグの沼地の片隅で、自分たちは凍え死んでいくんだと思いながら、もうどうでもよかったのです。デイジーは、こんなに凍えるなら、永遠に眠ってしまうほうがずっといいと思いました。ゆっくりと雪の中にしゃがみこんでも、もう寒さを感じることもありませんでした。バートは横にしゃがんで、デイジーの体を抱え込みました、でもバートも、眠くて不思議な気持ちになっていました。マーサはロデリックによりかかっていました。ロデリックはマーサを自分の毛布の下に引き寄せようとしました。

荷馬車のそばで身を寄せ合って、四人はじきに意識を失っていきました。月が上ってきて、四人の体はどんどん雪に埋もれていきました。

その時、大きな大きな影が、四人の上に迫ってきました。そして、沼地の雑草のような長い緑の毛でおおわれた二本の巨大な腕が降りてきました。まるで赤ん坊を抱き上げるように、イッカボッグは四人をすくい上げると、沼地の奥へと運び去って行きました。

 

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