本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。
本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。
(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。
「イッカボッグ」第三十三章:フレッド王の心配
そんなこととは知らずに、スピトルワースとフラプーンは、王様といっしょに、豪華な夕食の席についたところでした。
フレッドは、イッカボッグがバロンスタウンを襲ったと聞いて、大変心配していました。怪物が、宮殿に一歩近づいたからです。
「何ということだ」フラプーンが黒プディングを皿にのせながら言いました。
「実に、驚くばかりですな、」スピトルワースが、トリ肉を切りながら言いました。
「なぜ防御軍は止められなかったのだ?」王様が不審そうに言いました。
沼地の淵には、イッカボッグ特別防御軍が駐屯しているから、イッカボッグがそこから出ることはできないと、王様は聞いていたのです。
王様がそうくるだろうと思って、スピトルワースは、答えを用意していました。
「残念ながら、見張りの兵士がふたり、居眠りしてしまったようです、陛下。そのふたりは、イッカボッグに食われてしまいました。」
「なんということだ!」フレッドが身震いして言いました。
「見張りを潜り抜けて、怪物は南へと向かったようです。」スピトルワースが、続けました。
おそらく、バロンスタウンの肉の匂いに誘われたのでしょう。ニワトリ何羽かと、肉屋と肉屋の妻を飲み込んでしまいました。」
「恐ろしい、恐ろしい、」フレッドは首をすくめると、お皿を横に押しやって言いました。「そしてそのあと、沼地へ帰っていったのだな?」
「見張りの報告によるとそのようです、陛下、」スピトルワースが言いました。「しかし、バロンスタウンのソーセージ味がしみこんだ肉屋を食べてしまったのですから、味をしめて、またやってくるかもしれません。防御軍の数を倍にする必要があるかと。そのためには、イッカボッグ税も倍にしなければなりません。」
その時、フレッドはスピトルワースを見ていたので、フラプーンが、にやりと笑ったのを見逃してしまいました。
「そうだな、そうしたほうがいいだろうな、」王様は言いました。
王様は席を立つと、落ち着きなく部屋を歩き回りました。ランプの光が、空色のシルクにアクアマリンのボタンがついた王様の衣装を、綺麗に照らしました。鏡に自分の姿を映そうと立ち止まったフレッドの表情が曇りました。
「スピトルワース、」王様が言いました。「人々は今でも私のことをよく思っているのだろうか?」
「陛下、なぜそのようなことをおっしゃるのです?」スピトルワースが息をのんで言いました。「あなたは、コルヌコピアの歴史上、一番愛されている王ではないですか!」
「昨日、狩りから戻ってくる道で、どうも人々が私を見て今までのように喜んではいないように感じたのだ。」フレッド王が言いました。「歓声がほとんどなかったし、旗もひとつだけだった。」
「どこのどいつがそのような態度を?」フラプーンが黒プディングを頬ばったまま、ポケットの鉛筆を探しながら言いました。
「名前や住所などわからんよ、フラプーン、」カーテンの房をもて遊びながらフレッドは言いました、「通りすがりの、ただの人々だ、わかるだろ。でも気に入らないのだ、しかも宮殿に戻ってみたら、今度は、「嘆願の日」が中止されるというではないか。」
「ああ、」スピトルワースが言いました、「そうなのです、陛下。そのことを説明差し上げようと思っていたところです。」
「その必要はない、」フレッドが言いました、「エスランダ令嬢が、すでに説明してくれた。」
「何ですと?」スピトルワースが、フラプーンを睨みながら言いました。エスランダ令嬢を王様に近づけるなと命じてあったからです。スピトルワースは、令嬢が王様に告げ口することを心配していました。
フラプーンは、不機嫌そうに肩をすくめました。それはそうです。四六時中、王様のそばにいることなどできるわけがありません。お手洗いに立つこともあるのです。
「エスランダ令嬢は、イッカボッグ税が高すぎると、人々が文句を言っていると話してくれた。北部に軍隊が駐屯しているというのも嘘ではないかという噂が飛び交っていると!」
「なんとふざけたことを、」スピトルワースが言いました。けれどもその噂は本当でした。北部には、軍隊など駐屯していませんでしたし、イッカボッグ税に対する文句が増えていることも本当でした。そのせいで、「嘆願の日」を中止にしたのです。
人気が落ちてきていることを王様に知られては困るのです。そんなことになったら、愚かな王様は、税金を下げるかもしれませんし、もっと困るのは、北部に偵察隊を送るなどと言い出して、駐屯地の嘘がばれることでした。
「連隊は交代制ですから、」スピトルワースが言いました、そして、変な噂が立たないように、本当に沼地に兵を送らねばと考えていました。
「おそらく、ひとつの連隊が引き上げているのを愚かなマーシュランダーが見かけて、沼地には誰もいないと思い込んだのでしょう。陛下、イッカボッグ税を3倍にしましょう、」スピトルワースが提案しました、文句のあるやつは思い知るがいい、と思っていたのです。「現に怪物は昨夜、防御線をくぐって抜け出したのですぞ!税を上げれば、マーシュランドにもっと防御軍を配置することができます。そうすればみんな満足でしょう。」
「そうだな、」フレッド王は、心配そうに言いました。「その通りだ。何といっても怪物は一晩で4人の人間とニワトリを何羽か殺してしまったんだからな・・・」
この時、召使のキャンカビーが部屋に入ってきました。深くお辞儀をすると、スピトルワースに、バロンスタウンのスパイが、急ぎの知らせを届けにきていますと耳打ちしました。
「陛下、」スピトルワースが落ち着き払って言いました、「ちょっと席をはずします。大したことではないのですが、あの、私の馬に問題が起きたようで。」