本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。
本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。
(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。
「イッカボッグ」第二十三章:裁判
さて、監獄に入れられている三人の勇敢な兵士たちのことを、忘れてはいませんよね。イッカボッグのことも、ノビー・ボタンのことも、信じないと言い張った三人です。
スピトルワースも、彼らのことを忘れてはいませんでした。それどころか、三人を監獄に入れてからずっと、どうやってうまく奴らを始末しようかと考えていたのです。
スープに毒を入れて、殺してしまおうかとも企みました。そして、どんな毒がいいかと考えていたときに、兵士たちの家族が、王様と話しをしたいと宮殿にやってきたのです。
そこにはエスランダ令嬢もいました。
スピトルワースは、彼らを、王室ではなく、新しく作った豪華な主任相談役事務室へ招き入れました。
「裁判はいつ行われるのでしょうか?」バロンスタウンの郊外で養豚場を営んでいる、オグデン兵のお兄さんが言いました。
「もう捕まってから何か月も過ぎています。」ジェロボームの居酒屋でバーテンダーをしている、ワグスタッフ兵のお母さんが言いました。
「彼らがなんの罪に問われているのかおしえてください。」エスランダ令嬢が言いました。
「裏切りの罪だ。」スピトルワースが答えました。
「裏切り?」ワグスタッフ夫人が驚いて繰り返しました、
「あの三人ほど王様に忠実な家来はどこを探してもおりませんのに!」
スピトルワースは、心配している家族の顔を見ながら、ある名案を思い付いたのです。
なぜ今まで気づかなかったのだ、兵士たちに毒を飲ませて殺してしまう必要などなかった。ただ、彼らの名誉をまるつぶしにすればいいだけなのだ。
「裁判は明日行う、ショーヴィルの一番大きな広場だ。できるだけたくさんの人に彼らの言い分を聞かせようではないか。」
そういうと、スピトルワースは薄ら笑いを浮かべながらお辞儀をすると、びっくりしている家族を残して部屋を出ました。そして、監獄へ向かったのです。
長い間監獄に入れられていた兵士たちは、少しやせて、哀れな姿となっていました。
「諸君、いい知らせだ、明日お前たちの裁判が行われることになった。」
スピトルワースは、はつらつとして言いました。
「何の罪に問われるのですか?」グッドフェロー大尉が疑わしげに聞きました。
「すでに話したはずだ、グッドフェロー、
お前たちは沼地で怪物に出くわし、王様を見捨てて逃げ出したのだ。その上、それをごまかすために、怪物などいないと言い張った。立派な裏切り行為だ。」
「まっかな嘘だ、」グッドフェローは言いました、「何とでも言うがいい、スピトルワース、だが私は真実を話すだけだ。」
ふたりの兵士、オグデンとワグスタッフも、大尉の言うことに、大きくうなづきました。
ですが、スピトルワースは笑いながら、話しました、
「私が何と言おうがどうでもいいのだろうが、お前たちの家族はどうなんだ?
ワグスタッフ、お前の母親が酒蔵で滑ってころんで、頭を勝ち割ったら、大変だな。
オグデン、お前の兄弟が、誤って草刈り鎌で自分を刺してしまって、ブタに食われたらどうだ?
そしてグッドフェロー、エスランダ令嬢が馬から落ちて、あのか細い首を折ってしまったらどうするかね?」
そうです、スピトルワースは、エスランダ令嬢がグッドフェロー大尉の恋人だと勘違いしていたのです。彼女が、一度も話したこともない男性のことを守ろうとしているなんて思ってもみなかったのでした。
グッドフェロー大尉は、なぜスピトルワース公が、エスランダ令嬢のことを持ち出して脅したのかわかりませんでした。確かに、エスランダ令嬢が王国で一番素敵な女性だと思っていましたが、チーズ職人の息子が令嬢と結婚するなんて有りえないと思って、内緒にしていたからです。
「エスランダ令嬢が私と何の関係があるというのですか?」大尉は尋ねました。
「しらばっくれるな、グッドフェロー、」主任相談役は怒鳴りました、
「お前の名前を聞いただけで、彼女が顔を赤らめるのを見たぞ、私を甘くみるなよ。お前を守ろうと、彼女は必死になっている、そもそも今までお前を生かしておいたのも彼女に免じてのことだ。
しかし、もしお前が明日、真実を話すというのなら、エスランダ令嬢には犠牲となってもらう。
彼女はお前の命を救ったのだ、グッドフェロー、お前は彼女の命を犠牲にできるのか?」
グッドフェローは驚きで言葉がありませんでした。エスランダ令嬢が自分のことを?そう考えただけで胸がおどり、スピトルワースの脅しのことなど、忘れてしまいそうでした。
そして、わかったのです。エスランダの命を救うために、明日自分は公衆の前で裏切りの罪を認めなければならない、そしてそうなれば、彼女の自分に対する思いは、当然あとかたもなく消えてしまうだろうと。
「諸君、勇気を出したまえ、」スピトルワースが言いました、
「お前たちが本当のことさえ言えば、誰もひどい目にあわなくてすむのだから・・・。」
その日、ショーヴィルの大広場は、大勢の人で埋め尽くされました。兵士たちは、ひとりずつ檀上に立たされ、家族や友人が見守る中、白状したのです。
自分は、沼地で怪物に出くわし、王様を見捨てて逃げ出した臆病者だと。
群衆は口々に兵士たちをののしりました。けれども、スピトルワースが、三人に終身刑を言い渡していた間も、グッドフェロー大尉は、ずっとエスランダ令嬢の目を見つめていました。
令嬢は、傍聴席の上のほうに、他の令嬢たちと座っていました。
時には、人と人はじっと見つめ合うだけで、一生分の言葉よりもたくさん、語り合うことができるものなのです。
エスランダ令嬢とグッドフェロー大尉が、何を語り合ったのか、ここで詳しく話すのはやめておきましょう。
けれども、エスランダ令嬢は、大尉が、彼女の気持ちに答えてくれたことがわかりました。そして、大尉は、一生牢獄に入ることになったけれども彼が無実であることを、エスランダ令嬢はちゃんとわかってくれていることを知ったのでした。
ダブテイルのおじさんは、裁判を群衆のうしろから見ていました。
おじさんは、兵士たちをののしることはしませんでした。デイジーには作業場で仕事をさせて、裁判には連れてきませんでした。
家に帰る途中、ダブテイルのおじさんが、考え事をしながら歩いていると、泣きながら歩いているワグスタッフ兵のお母さんに出会いました。お母さんの後ろには、ののしりながら、野菜を投げつけている悪ガキどもがついていました。
「おまえたち、それ以上このご婦人につきまとったら、私が容赦せんぞ!」ダブテイルのおじさんは怒鳴りました。
おじさんの大きな体つきを見て、悪ガキたちは、こそこそと逃げていきました。