イッカボッグ・訳 by どら雲

JKローリング「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲:第22章

イッカボグ

JKローリングのイッカボッグ

本文中の挿絵は、子供たちからの応募作品の中から掲載させて頂きました。内容は抜かしているところもたくさんあり、荒っぽい訳なので、本が出版されたら、みなさん、ぜひ本物を楽しんでくださいね。

本の目次と登場人物の紹介は、「JKローリング新作「イッカボッグ」を訳してみた by どら雲」をご覧ください。

(注)この記事内のカタカナ表記を含む表現文字は「どら雲」独自のもので、正式表記とは異なりますのでご了承ください。

「イッカボッグ」第二十二章:旗のない家

こうして、コルヌコピアの人たちは、毎月2金貨を、イッカボッグ税として納めることになったのでした。

集金係は、背中に、大きなランプのように白く光る目が描かれた、黒い制服を身につけていました。

人々の中には、陰で、その目をスピトルワースの目だという人もいました。

スピトルワースは、集めた金貨で、まずイッカボッグの犠牲者の記念像を立てようと考えました。

はじめは、ビーミッシュ少佐の像を考えていたのですが、街の人々の同情は、ボタン二等兵のほうに向けられていたので、ボタン二等兵の勇敢な姿を像にして、ショーヴィルで一番大きな広場の真ん中に、建てたのでした。

そのうちに、「街中の街」では、毎週日曜日になると、人々がその像の回りに花を供えるのが恒例となりました。

ある若い婦人などは、毎日そこに花を供えてに来て、自分がノビー・ボタンの恋人だったと話していたそうです。

ボタン二等兵

王様は、まだイッカボッグが現れることを恐れて、狩りにも出かけませんでした。王様の相手をすることが退屈になってきたふたりの公爵は考えました。

「王様がイッカボッグと戦っているところを大きな絵にして、宮殿に飾りましょう、国民もそれを願っております!」

うまくのせられた王様は、まんざらでもないように、それから何週間もの間、マリック・モットレイという、コルヌコピアで一番の画家に王様の絵を描かせたのです。

立派な軍服と宝石入りの剣も、新しく作らせました。

新しい王様の剣

マリック・モットレイの後ろには、50人もの画家たちが座り、マリックの作品を小さめの紙に描きうつしました。

出来上がった絵をコルヌコピアのすべての街や村に配るためです。

大勢の画家たちの前で、王様は、何度も怪物と戦った時のことを話して聞かせるのでした。

そしてそのうちに、自分でもそれが本当に起こったことのように思えてくるのでした。

 

王様が忙しくしている間に、スピトルワースとフラプーンは、国中を走り回り、毎月、残りの金貨を山分けして、それぞれの屋敷にこっそりと運びこんでいました。

 

さて、コルヌコピアには、殺されたヘリングボーンの他に、11人の相談役がいました。

彼らは、真夜中に、突然ヘリングボーンが引退して、二度と姿を現さなかったことを不思議に思わなかったのでしょうか?

朝起きたら、スピトルワースが、ヘリングボーンの後を継いで主任相談役になっていたことをおかしいと思わなかったのでしょうか?

そして、そもそも、彼らはイッカボッグを信じていたのでしょうか?

 

とてもいい質問ですね。ここで今、お答えしましょう。

もちろん、彼らはスピトルワースが、選挙もなしに主任になったことに不満を感じていました。

王様に苦情を申し出ようとした者もいました。

けれども思いとどまったのです。それは、みんな、恐れていたからです。

 

街中に張り出される王室宣言は、どれもみな、スピトルワースが書いて、王様が署名しているのです。

それに反抗することは、王様に対する裏切りになるのです。

王様の決断に疑問を投げることも、イッカボッグなどいないのではないかと発言することも、イッカボッグ税が必要なのかと問いただすことも、毎月の金貨を納めないということも、

すべて王様に対する裏切りとなるのでした。

イッカボッグは作り話だと言う人を通報したら、ご褒美として10金貨もらえるという決まりもできたのです。

相談役たちは、みんな、裏切りの罪で監獄に入ることを恐れていましたし、今のまま、相談役として、贅沢な暮らしを続けることのほうが、大切だったのです。相談役の制服を着ていれば、焼き菓子屋さんの列にだって並ばなくてよかったのですから。

そういうわけで、彼らは、イッカボッグ特別防御軍にかかる費用も、すべて承認しました。

 

それから間もなく、コルヌコピアのあちこちの街を、沼地の緑と同じ色の制服を着た軍隊が、行進する姿が見られるようになりました。

怪物が住んでいる沼地で働くはずの軍隊が、なぜ、街中を手を振って行進しているのか、不思議に思う人もいました。

でも、ほとんどの人たちは、お互いに競い合って、イッカボッグの話を盛り上げるのでした。

王様がイッカボッグと戦っている絵の、安物の写しを窓に張ったり、

「喜んでイッカボッグ税払ってます」とか、「イッカボッグやっつけろ、王様万歳!」といった看板をつるしたりしました。

税金集め係にちゃんとお辞儀をしたり、あいさつをしなさいと、子供におしえる親もいました。

街中の街の子供達

ビーミッシュの家は、「イッカボッグやっつけろ」の張り紙がそこら中に張られていて、壁の色が何なのかもわからないようになっていました。

バートは、学校に戻っていましたが、休み時間は、ずっとロデリック・ローチと一緒でした。

ふたりで、大きくなったらイッカボッグ特別防御軍に入って、怪物を退治しようと相談していたのです。

それを見て、デイジーは、がっかりしました。バートがデイジーのことを忘れてしまったのかと思うと、とてもさみしくなるのでした。

 

デイジーの家は、「街中の街」の中で、ゆいいつ、旗も張り紙もしていませんでした。デイジーのおとうさんは、イッカボッグ特別防御軍が外を通るときには、いつも家の中にいるようにと言っていました。

 

スピトルワース公は、墓地のそばにある、旗も張り紙もない家に気が付いていました。

そして、何かのときには役に立つかもしれないと、そのことを頭のすみにちゃんとしまっておくのでした。

 

 

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